深い溜息。シリコンバレーでスタートアップがどのようにおこなわれているかという実例集。Yコンビーネーターという起業家新兵育成塾が『ハッカーと画家』の著書で有名なポール・グレアムの主幹でおこなわれている。
Yコンビーネーターでは、$14-20kドルの非常に小さい額の投資をおこなうと同時に、スタートアップ時に必要な指導がおこなわれる虎の穴だ。2005年から550を超える起業にたいして投資がおこなわれていて、このなかには日本でも有名なDropboxやHerokuが含まれる。
このコンビーネーターを通して仲間づくり、またその後のベンチャーキャピタルなどへのつなぎ企業へと育っていく。
兵隊の訓練でいえばBoot Campであり、Webの世界でいえばBootstrapにあたる、スタートアップのためのフレームワークといっていいものがシリコンバレーには確立しているようだ。
日本はこの著書でいわれているような、「檻に入れられたハッカー」が多い。檻とは大企業などのことで、大企業にはいってしまうとその首にはしっかりとリードがついて「何か悪さをしないように」、規定の評価基準の中におさまるように制度がくまれ、この基準から外れると途端に苦労するようになっている。仕組みを出し抜こうとしても、そもそも仕組みそのものがスパゲッティーモンスター化しすぎて、互いに矛盾しまくって両バサミ(有名なダブルバインド条項)になっていて、なにかをやらかせば、法治ではなく人治で裁かれる。
古くはマイクロソフトのビル・ゲイツをはじめ、facebookのマーク・ザッカーバーグもgoogleのラリー・ペイジもセルゲイ・ブリンもYahoo!のジェリー・ヤン、デビッド・ファイロも自分でアイディアを具象化できるハッカーだ。日本の経営者で自分で”コード”が掛ける人が何人いるだろうか?HONDAの創業者以来いなくね?誰かいたっけ?と話しになったときに、ホリエモンの話しがあがって悲しくなった。ホリエモンこと堀江貴文氏はコードが書けた人だが、比喩ではなく本物の檻にいれられた。なんという・・・。
先日winnyを開発した金子さんが若くして亡くなられた。おくやみ申し上げる。彼もまさにその働き盛りの貴重な年月を法廷闘争に費やした人物だ。ハッカーからパソコンを7年取り上げることは、なんの解決にもならない。岡崎図書館事件もそうだ。遠隔操作事件もそうかもしれない。
人類の文明や文化、科学をおしすすめるかもしれないエンジニアがエンジニアリングで評価されず、所属している企業の看板や資本力、またはそれまででいくら稼いだかという結果で評価される。まてまてまて。科学技術の革新は、これから将来生み出す価値を評価しなきゃいけない分野のはずだ。なぜ既存のモノサシで図ろうとするのか?そのくせイノベーション、イノベーションと騒ぎたてる。
「アイディアはどうでもいい、あなた達が気に入った」というレベルで投下される数百万円の資金。企業未満のチームにとって彼らの才能を最初に見いだす貴人行為だ。日本に貴人はいるのか?もしそんな人がいたら奇人あつかいされてしまう。
P413 「テクノロージーのハブを作るには2種類の人間さえいればよい。金持ちとハッカーだ」
P414 「優れたコンピュータ科学部がある大学の周辺で、かつ変人を許容してくれる文化を持った地域だ。優秀なハッカーの多くは変人だ」「自治体が1000のスタートアップに100万ドルずつ出資すればよい」
日本にも幸いなことにテクノロージクラスタはある。面白い技術をたくさんもっているし世界とも十二分に戦える。統計的にはお金持ちも世界標準のなかではとても多くいるはずだ…。だが日本の金持ち、これに少し問題があるのかなと思う。
日本のお金持ち(純資産1億円以上の富裕層、5億以上の超富裕層)は数種類に分類できる。そしてそれは年齢と大きく関係があるのではないかと思う。
70歳以上(土地成金)
戦前の金持ちは財産没収されたのでこの年代の金持ちは都市部の農家などの土地成金が多い。不動産などを多くもっていてキャッシュフローは潤沢だが、技術への投資はおこなわない。もっかの懸念は継承だ。
60~70歳ぐらい(出世成金)
一部上場の経営層でも年収は数千万円、しかもキャリアの終わりでこれなので蓄財という意味では数億円も使える余裕がない。テクノロジーに明るく社会経験も豊富なので貴人になりうる層だが、ポール・グレアムのように個人の裁量で数百万をぽんぽん再投資できるほどの潤沢な資産をもつ人はいない。真面目にやってきた人であれば尚更だ。そうじゃない人は技術ではなく政治に投資したりする。
45~55歳ぐらい(事業成金)
これくらいの年代だと中小企業の社長や士業(医者や弁護士)などで商売に成功した人のほうがお金をもっている。しかし、同時に債務も多く、資産と負債が大きいところでバランスしているだけだったりする。可処分所得が多く高級車にのったりするので金持ちに見えるが、自ら事業をおこなっていることが多いので、他人ヘ投資するなら自分も噛もうとするか、自分の事業に絡めようとするケースが多い。
35~45歳ぐらい(運用成金)
この年代ですでに資産形成が終わっている場合は2パターン。なんらかの元手をもとに株や不動産などの運用益で稼いだ層。遺産などのまとまった資金がはいったゆえ運用を覚える人も多い。流動性の高い金融商品から最終的には不動産のような手堅いところに落ち着く。同時に遺産のような自分の才覚ではないところでお金を持ったひとから、なんとかして身ぐるみはごうとする人もおおく、未公開株に手をだす投資家はだいたい退場する恐ろしい社会風習がある。
35歳未満(ネット成金)
いわゆるニューリッチ層。最近だとアプリとか一昔まえならアフィリエイトやFXなど、形態はいろいろ。熟故に尊法なにそれおいしいのとかなことも多かったりするが、まだわかいので他人に投資より自分の事業に投資したほうが効率が高い。
事業で成功したスーパーリッチ(超富裕層)って、税の関係から個人資産にしない(できない)から、再投資できないんだよね。所得にすると税金で半分もってかれちゃうし、相続のときにも半分もってかれるし。そういうわけで日本には他の人の事業に投資できるお金持ちはおらず、その投資業務は貸付という形で銀行業務に委託される。
次世代を育てるために投資したくても、譲渡税高いし(当座の資金が必要な差し迫った人は年末まで税金分なかなか残せないよね?)、株式取得で成長したら株を買い戻してもらうにしても未公開株を発行額面以外で評価すると脱税だとか利益調整だとかとられちゃうので、投資家が売却益を得ようにも、上場してもらうよりない。
アーリースタートアップは500社に投資して1~3%の成功率らしいけど、この投資失敗分を損金としてうまく計上できないと、競馬でハズレ馬券は経費に含めませんっていわれて税金かけられたような事件になっちゃう。(累計約28億7000万円の馬券を買い、累計約30億1000万円の払い戻しを得たことにたいして、5億7000万円脱税に問われた事件があった。)
日本だと金持ちとハッカーを集めてもテクノロージーのハブは作れなそー。これに公益性を担保するような自治体レベルの仕組みが必要。サザエさんの銅像が事業とみなされて税金かけられちゃうような制度ですから。
国が税金として集めて再投資してくれればいいけど、起業助成金とかは、使った実績に対して翌年振り込まれるのでそんなんじゃ助成金を受け取るまでの助成金が必要で(以下ループ)
やっぱり深い溜息。22歳ぐらいの登場人物達の活躍はまぶしすぎてつらい。とっとと売ってしまおう( ゚д゚)