最前線の現場で汗を流してくれている方、昼夜を惜しんで研究をしてくれている方々のおかげで、脅威に対して日々新しい知見がたまりつつある。
デルタ株以前では「3密を避ける」が新型コロナ対策の肝であったが、感染者からのウイルス放出量も感染に必要なウイルス量も少ないデルタ株の趨勢が流行の主流になると、対策もアップデートする必要があるようだ。
Airborne transmission of respiratory viruses
science.sciencemag.org/content/373/6558/eabd9149
コロナウイルス感染は飛沫感染が主で空気感染はしないものと考えられてきたが、水疱瘡並みの実行再生算数を示すようになり、ここにきて空気感染の定義にも手をつっこんで見直しが必要となったそうだ。
下痢や嘔吐、発熱を起こすノロウイルス感染症という病気がある。
ノロウイルスは感染に必要なウイルスの数(ウイルス力価)が非常に少ないことでも知られている。感染者が残した吐瀉物などを掃除しただけで感染する。汚物が残されているわけでもないのにトイレを共同利用などすることでも感染するのだが、この対策で有効なのがトイレを流すときはトイレのフタを締めてから流すことだ。というのも、トイレのフタを閉めずに水を流すと、非常に細かい粒子が舞い上がり30分程度トイレ内に滞留する。これが原因でトイレを利用した人が感染するというわけだ。
さて、新型コロナウイルスのときに、なぜノロウイルスの話しをしているかというと、この空気力学(流体力学)に則った細かい粒子の振る舞いをコロナウイルスでも意識することが必要になってきたからである。デルタ株においても、ウイルス力価が下がり、非常に小さな空気中に滞留するコロイドを吸い込むことで、感染を成立させることがわかってきた。
ノロウイルスの場合、腸管の細胞に感染し、そこで増えるため嘔吐や下痢という症状につながる。コロナウイルスの場合は、上気道(喉)や下気道(肺)に感染するために、咽頭痛や肺炎を引き起こす。
感染者の唾液による飛沫であれば、肺の奥深くの細胞に感染を成立させることは難しい。
飛沫のみを考えた場合、実際に必要なソーシャルディスタンスはわずか20cmで、咳をしたときでさえ50cmということだ。
だかそれが100μmのちいさな飛沫になると、2メートルのソーシャルディスタンスを必要だったわけだ。そしてさらに小さな5μm以下の微細飛沫になると、飛沫が小さすぎて自重で落下しない空気中を漂うほこりのようなものになる。そうなると、重要なのは距離ではなく、その空間における飛沫の存在確率。吸い込む確率となる。
ウイルスを含んだ飛沫を吸い込む確率を下げる方法は簡単で、その空間にウイルスを吐き出す人を招かないこと、ウイルスを吐き出す人の口にマスクをさせ飛び散る量をへらすこと、吸い込まないひようにマスクをすること。そして、換気をすることである。換気がされない空間ではひたすら空間中のウイルスは増え続けることになり、感染をしないというのが難しくなるのだ。
肺胞、気管支、喉頭、口腔から吐き出されたエアロゾルはその大きさが5μmだと地べたに落下するのに33分かかり、それが1μmになると12時間以上空気中にとどまることになる。
さてさて、誰にも会っていないのに感染したというニュースが多くなってくると思うが、5μmの微細飛沫からの感染を考慮しなければいけない場合は、数十分前にそこに居た人とのソーシャルディスタンスを考えなければいけなくなったわけだ。誰も居なくても使い古された空気を使いまわしてたら感染するということだ。
飲食店では机や椅子についているからと手指消毒やアルコールスプレーによる表面消毒が感染症対策としてなされているが、コロナウイルスが感染するのは上気道と下気道。指先や胃から感染するわけではない。
もちろん、指先についたウイルスを目や鼻、口にもっていくことで、そこから呼吸に乗って感染することがあるので、手洗いは非常に重要だ。だが、まだ空気中を漂ってるのに、机を拭けば消毒が完了するわけではない。
感染者うちメガネをしている人の割合には有意に差があるそうだ。これも目から涙腺を通って鼻腔に流れたウイルスが呼吸によってエアロゾル化して下気道にはいるためなんていう推測がなりたつ。
喋ることにより放出されるエアロゾルを考えられると黙食が有効となるだろう。
食事中はしゃべるなという昔ながらの日本のマナー、挨拶は握手ではなくお辞儀、家で靴を脱ぐ、人があつまる神社などには手水場がある、などなど、もともとアジア圏の土着病なのであるから、なんてことはない、昔しながらの知恵は現代でもやくにたつ。
換気と二酸化炭素センサー
さて、今そこにいない人とのソーシャルディスタンス。非常に難しいように思えるかもしれないが、なんのことはない二酸化炭素センサーを使えばすぐ解決する。
人間は酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す。吐き出した二酸化炭素はすぐに拡散するが、そこが換気の悪い密室の場合、その空間の濃度はあがっていく。密閉された車などで長時間ドライブなどをすると眠気を覚えるのはなにも退屈だからというだけでなく、二酸化炭素濃度があがっているのだ。会議で眠くなるのも部長の話しが退屈なのではなく、二酸化炭素濃度があがっているからだ。
二酸化炭素センサーはうちのお店でも仕入れ取り扱うようにしている
item.rakuten.co.jp/hagurachaya/co2lite-627/
item.rakuten.co.jp/hagurachaya/co2pro-628/
当初はパソコンで使えなかったので、USBキャプチャとか質問とかしてブラウザで動くようにもしたら、先生がAPIを公開していただけるようになった。ありがとうございます!
あと、その他にも自分でも複数台買って試したのだが、5000円程度で販売されている二酸化炭素センサーの中には二酸化炭素センサーなんかそもそも積んでいないものも多くある。(電気通信大が粗悪なCO2センサーの見分け方を公開、5000円以下の12製品中8製品はCO2ではなく消毒用アルコールに反応 jp.techcrunch.com/2021/08/12/uec-co2-sensor/)、購入の際にはご注意されたし。ポケットCO2センサーは自分も取り扱っているので保証するが、それ以外を買うなら国産のをおすすめしておく。火が消えるほどの濃度の二酸化炭素下においてもまったく反応しない商品をみたときはびっくりしたけど、そんなのが2/3だ。計量法でなんとかならんのか・・・。
モバイルバッテリーに挿して、かばんとかのサイドポケットに入れておけば、その場その場の空気の淀み具合を数値で目視できるし、換気するにもどの程度で空気が入れ替わるのかを数値で体感することができる。その地域の緑化の度合いもわかるのだ。将来も重要なアイテムになると思う。
ついでなので、書いておくが、二酸化炭素センサーのUSB受信についてはオープンソースにもしておいたので好きにつかって活用してください。
kuippa.com/co2/
github.com/kuippa/CO2webUSB
エアクリーナ(hepa purifier)
エアクリーナーを部屋の真ん中に置くほうが効果が高いそうだ。
正直、ウイルスサイズの微粒子には空気清浄機はまったく効果がないものだとおもっていたので、私にとっては意外なレポートだった。
気温は低温のほうが安定するのはコロナも同様であるので、冬に流行が再拡大するものと考えられる。本日現在のワクチン2回摂取完了率は43.8%、ほんとワクチンが間に合いそうでよかった。
本当によかった。
ちなみに私もワクチン接種完了したが、発熱で2日ねこんだ。ブースターでまた打たなきゃいけないのだとしたら嫌ではあるが、世界の趨勢を見ると、それでも打つべきだと思う。
先日、駅に行ったら、上位当選してた市議会議員が反ワクチンの演説をぶっこいててこいつマジかと思ったが、皆様におかれましては正確に情報にあたられますようお願いいたします。
レジなどに張られている透明のフィルムやパネル
室内での咳やくしゃみによる飛沫の飛散を防ぐために設計された物理的なプレキシガラスの障壁は、空気の流れを妨げ、さらには高濃度のエアロゾルを呼吸ゾーンに閉じ込める可能性があり、SARS-CoV-2の感染を増加させることが示されている
そんな気はしてた・・・。でも、逆効果とまでは思ってなかったな。
まあ、日本では感染対策のポーズとしてやられてる節があるから、もはや撤去は困難だよね。火災になる例もあるそうで、消防的にもよくないらしいけど。
相対湿度・温度
滞留時間はストークスの法則(Stokes’ law)にしたがうそうだ。
空気の動的粘度に反比例する、粘度が高いと、滞留時間は下がる。
同じ温度下の場合、空気の絶対湿度が高いほうが粘度が下がり、同じ絶対湿度の場合、気温が高いほうが粘度があがる。湿度は低く、気温が高いほうが滞留時間は短くなる。
だが、コロナウイルスの特性として、高温で不活化しやすく、温度が低いほど生存性は高くなる傾向があるので(https://www.saaaj.jp/covid/pdf/covid02.pdf)、ここでは矛盾があるように見える。
感染流行当初、加湿器について意見が割れていた。
長い時間軸でみればウイルスの不活化スピードをあげるので使うべきだが、短い時間軸で見た場合、微細エアロゾルの乾燥を妨げ感染性を延命させてしまうというような論だ。
なるほどウイルスの空気中の滞留時間を取るか、放出後の不活化時間を取るかの問題で、どちらがより効くのかの話しになる。
その空間に人いるかどうか、どれくらいの時間滞在するのかで判断する必要があるのかもしれない。
個人的には、湿度についてはまだよくわからないので判断を保留にしたいが、今後も注目すべきパラメーターだとは思っている。たぶん皆さんが研究してくれることでしょう。
また肺より上気道のほうが温度が数度低いので、ウイルスはより上気道で増える。低温はウイルスに有利と示唆されている。
あと、冬場のような湿度が低い場合は粘膜繊毛のクリアランスが失われるのも影響する。温度湿度は今後も注目すべき変数だ。
紫外線について
微細飛沫に含まれるようなウイルスは、紫外線で容易に不活化し感染能を失う。だから、家の外に換気で出した空気による汚染に心を痛めることはない。
人工的に紫外線による滅菌装置(よく大腸菌などを滅菌するのにつかわれるので滅菌ランプと呼んだりする)は、それなりのトレーニングを受けていても、扱いにはそれなりに気を使う。というか、それを使う研究室にいた自分は自宅にはそれは置きたくはない。
最近はスーパーのレジのカゴに滅菌装置を取り入れたはいいが、使い方の理解が足りず、やけどを起こしたというような事故もあった。菌やウイルスのDNAやRNAを壊せるということは、細胞のDNAも損傷するわけで、やけどや皮膚がんにつながるなんてこともありうる。
ちょっと取り扱いが難しいので特殊な波高の紫外線ランプとか、エアコンや空気洗浄機とかに据え付け密封型で人が触れるところがないもの、そういう製品が安定化することを待つばかりである。
「99.99%の不活化に必要な時間は、数時間から数ヶ月と様々」、数ヶ月も感染性を有しているとなると、ウイルスの不活化を待っていてはだめな空間がある。
まあでも、水槽用とか植物用の紫外線ランプぐらいならほしいなとか思ってたりする。
参考
Airborne transmission of respiratory viruses
science.sciencemag.org/content/373/6558/eabd9149
(和訳)
気道に感染するウイルスの空気感染について
minerva-clinic.or.jp/covid-19/about-infectivity/airborn-transmission/
「コロナは空気感染が主たる経路」 研究者らが対策提言
www.asahi.com/articles/ASP8W6KSKP8WULBJ00H.html
FAQs on Protecting Yourself from COVID-19 Aerosol Transmission
docs.google.com/document/d/1fB5pysccOHvxphpTmCG_TGdytavMmc1cUumn8m0pwzo/edit
CO2濃度による換気の監視
covidco2jp.wordpress.com/2021/01/26/faq/
CO2モニター製品比較表
covidco2jp.wordpress.com/2021/01/17/co2/
・エアロゾル感染が主であり、換気、気流、空気ろ過、紫外線消毒、マスクの装着などが特に重要
— Hiroshi Tsuji, MD, PhD, MPH🌏産業医 (@Hiroshi_Tsuji) August 27, 2021
・粒子径以外に、空気感染に影響与える要因は、粒子中のウイルス量、エアロゾル中のウイルス安定性、各ウイルス用量反応関係が挙げられる
・このため、平均ではその性質を捉えられない事がある 9/n pic.twitter.com/PMDdZ4LChn
コロナパンデミックで加速した科学や流体力学の知見から、従来の飛沫、空気感染(=airborne transmission)の定義の再考を行うべきとするレビュー(参考文献なんと206!)が、今朝のScience誌に。
— Hiroshi Tsuji, MD, PhD, MPH🌏産業医 (@Hiroshi_Tsuji) August 27, 2021
はしかや結核など他の呼吸器系ウイルスの感染経路に関する従来の考え方の更新まで踏み込む、圧巻の内容 1/n pic.twitter.com/Cpn7rE1QSu