なぜ化学調味料は毒だという言う人は後を絶たないのか


義務教育の敗北とは言うけれど、義務教育ではやらないようなことまでちと踏み込んでみると違う感想をいだくかもしれない。

昨日ひさかたぶりに更新したブログで味覚や嗅覚のお話しをした。味覚嗅覚障害で味や匂いがしなくなった人もいるかもしれないが、もしかしたら「それが普通ですけど?」の人もいるかもねというようなお話しだ。同じものを食してもそもそも味覚受容体に差があるのだから、感じ方が違う。

この味は好きだとか美味しいとか、そういう好みの感想ではなく、そもそもその味覚を感知できていない可能性に触れた。だから紅茶はコーヒーに比べると不遇だと。目が悪いので細かいのとか遠いのはそもそも見えてないけど、味覚や嗅覚にメガネに相当するものが無い以上、個人間でそれらを共通のものとして比較しあうことはナンセンスだ。

人間が味を感じる仕組みだが、舌というセンサーが刺激をうけとって、それを伝達する神経回路を通って、それを脳みそが記憶などとぶつけて照合する。

人間の味覚には5つあると言われていて(最近では6つ目の脂肪酸を感知できる神経回路があるとも研究がすすんできている)、塩味、酸味、甘み、うま味、苦みである。

このうち、塩や酸味はイオンチャンネル型受容体で、甘み、うま味、苦みはGタンパク質共役型受容体となる。

これを模式的に説明するのはしんどいが、イオンチャンネル型は通過したのをピコーンって検知する、電気回路に例えるなら電球型。タンパク質共役型受容体型は電線の上に方位磁石をおいて、磁石がうごくようなら電流がながれているのを検知するみたいな構造に近い。(あってる?)

電球型のほうがシンプルなので、壊れにくいし、点く点かないなので検知も簡単だ。共益型は磁石がだめになったり、電線と磁石の距離が離れすぎていたり、磁石がうごいたのをちゃんと見てなかったりと要素が増えるので精度の差が出やすい。

で、うま味調味料のお話し。
これは、うま味を足すものである。

なので、うま味の分解能が低い人がつくった料理を、うま味の分解能が高い人が食べると、「こりゃ毒だ!」ってなる量を、添加してしまうことがある。

これが塩なら、あまり舌に個人差が出ないので、
「しょっぱすぎるよ!」「そうかなー?」とはならないが、うま味の場合は、ある人にとっては「舌がピリピリするほど」で、ある人にとっては、それでようやく「うま味」を感じ始める程度だったりするのである。

で、たっぷりとうま味を足された料理を食べた人は、びっくりして「この料理をつくったもんを出せ!」となるわけだ。で、やはり人口調味料が原因か!!という「体験」を積んでいくのである。実際には口にだして文句を言ったりすることは少ないだろうが、なるほどこれがうま味調味料かと認知していくわけだ。

天然の素材からうま味を抽出しても、そこまで暴力的なうま味の濃度にすることはできない。
だから、「あんなものは体に悪い」は、彼ら彼女らの実体験としての蓄積でもある。

同じようなものに、「人工甘味料は体に悪い」というような言説もある。
本当に体に悪いかどうかはおいておいて、あれも、人工甘味料を舌で認知できる人とできない人がいることが最近の研究で判明してきている。
苦み受容体の遺伝子の働きによるものなので、これも訓練でどうにかなるものではない。
人工甘味料が入っているとすぐわかる人と、まったくわからない人にわかれるのだ。

「全然違うじゃん!!」といっても、全会一致とはならない。だって、そもそも違いがわからない人がいるんだもん。

同じ程度に紫外線を浴びても火傷を起こす人と適度な日光浴でビタミンDがつくられて健康になる人がいるように適量は人によって異なる。

悲劇なのは、双方において、わからないのをわかっていないことだ。

ほうじ茶に昆布の切れっ端を入れて飲むとおいしい。
それくらいのうま味で十分な人もいれば、味の素だぱーって入れたほうが美味しいっていう人もいる。
積んでいるセンサーが違うのだから、同じ感想にはなりえない。
時にそれは「毒盛りやがって」という感想になる。

特に、「甘み、うま味、苦み」は、その機構から、より個体差が出やすく、感応性が人によって異りやすそうだ。それらは受容体遺伝子は複合体なので、片方がノックアウトしたりしていたり、発現がうまくいってなかったりすると結果の活性の強さには大きく差が開く。

同じようなことは嗅覚受容体にも言える。だが、先天的な複合型の受容体遺伝子の問題なので、時にそれはセンシティブな問題になることも将来的にはあろう。義務教育の敗北というが、義務教育から卒業した人たちは、そもそもが違うということを理解しておくことが大事だ。

日本の場合は、遺伝子の個人差があまりないので、この甘さは生命に危機を感じるほどなので無理ですっ!!となるようなことはあまりないが、これが人種をまたぐとそうも言ってられなくなる。
真皮や新皮質の厚さは人種(遺伝)によって異なる。体重差の関係で浸透圧で無事でいられるイオン濃度も異なる。複合的な要因で、食は生存の危機にも直結する。

サミルアッキやマーマイトを常食して無事でいられる日本人は少ないかもしれない。(←これはただの冗談ね?)

参考やら部分的引用メモ

ヒトのT1r1+T1r3系では、イノシン酸はグルタミン酸の応答のみを特異的に増強する
イノシン酸はグルタミン酸応答
アミノ酸応答を増強する

L.Buckらは、1999年に嗅覚受容体がGTP結合タンパク質共役型受容体であることを明らかにして、ノーベル賞を受賞

味細胞から、2つの新しい受容体遺伝子 (T1r1とT1r2)が同定

「アミノ酸結合部位以外の領域で決定される受容体の活性の強さ」

うま味の相乗効果は,ヒトのみならず,マウス,ラット,イヌ,ネコ,サルなど哺乳類で広く共通して認められる。

味覚受容体の種類や機能には動物種ごとに違いがあ
ります.一方で,同じ動物種内でも味覚受容体遺伝
子の多型により,特定の物質に対する感度が異なっ
たり,場合によっては全く感じなくなったりと個体
差が生じます.

AVI型(低感受性型)の
TAS2R38をもつ人は,ブロッコリーやクレソンなど
のアブラナ科の野菜の苦みをあまり感じないという
報告もあります

感受性の違いは味覚受容体だけで
なく,嗅覚受容体にも生じます.みんなで一緒のも
のを食べていても,味や香りの感じ方はそれぞれの
人で異なっている可能性が高いのです

メチオナール以外にも,香気成
分が味覚受容体に作用する例として,コーヒー中の香気
成分が苦味受容体の活性を抑制することが報告されてい

15) B. Suess, A. Brockhoff, W. Meyerhof & T. Hofmann: J.Agric. Food Chem., 66, 2301 (2018).

うま味受容体
www.umamiinfo.jp/what/attraction/receptor/

旨味受容体T1R1/T1R3のアミノ酸選択性を決定する分子メカニズムの同定
www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2014/20140109-1.html

うま味受容機構と嗜好性
www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/96/12/96_12_829/_pdf/-char/en

機能解析技術が明らかにした味覚受容体と食物成分のかかわり味の感じ方は生き物それぞれ 戸田安香
www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/57/2/57_570210/_pdf

味覚受容体
bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%91%B3%E8%A6%9A%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

料理研究家リュウジ氏、味の素めぐり「金があるなら昆布が…」の声に「義務教育の敗北を感じた」
news.yahoo.co.jp/articles/45027695e530e051763275a72d54d44c1509526a


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