序論 盗人と資本主義


プロローグ?

「失礼しますよ。」

日本庭園に面した縁側から音もなくあがりこんできた男をみてギョっとする。
およそ料亭には似つかわしくないシルクハットに片眼鏡。
部屋の中の男達が反応もできずにいるうちに、狼藉者は帽子を外し席についた。

誰かいるか!と大声をあげども誰もはいってこない。
向かいに座る男も唾きを飛ばしながら何やら叫んでいるようであるが声が聴こえない。
大きな声が、まるで掻き消されるように口から出た途端に霧散する。

「お静かに、おやめなさいな。危害など加えませんよ。ちょっとお二方のお話しに混ぜてもらおうと思いましてね。呼ばれてはいないのですがお邪魔した次第です。なに、経済なるものについてお話しをしたいと思いましてね。」

狼藉者はよく磨かれた天然木一枚板の長机に人を殴り殺せそうな厚みがある本を置く。

「あなた方もその物騒な武器をおろしていただけますか?
そんな、三本の矢を同時につがえたって全部なんか飛びやしませんよ。
そちらのお方もバズーカーなんておやめください。お味方ごと吹き飛ばすおつもりですか。」

トマ・ピケティ LE CAPITAL 21世紀の資本

アメリカ人が書いたら数ページのエグゼクティブ・サマリーで終わりそうな内容をフランス人に説明させるからこういうことになる。700ページぐらいあったであろうか。ながら読みとはいえ正月三ヶ日だけは読み終わらず一週間ぐらいひらいていた。なかなか読み下すのに根性がいる本である。ようやく読み終わったと思ったら注釈のページが100ページ待っていた時はどうしてくれようかという気持ちが味わえるので是非君も読んでくれたまえよ。

この本がベストセラーになっていることは私にはにわかには信じられない。アメリカ人の好きな格差論に触れたからであろうか、面白い記述はいくつか見つけることはできたが、全体を通せばそれほど新しい知見でもない、ひたすら回りくどい。なにせ結論は表紙に、序論に書いてあるのだ。それについてご高説をたまわる形だ。

それと、日本語翻訳の版で読んだが運のつき「トップ百分位」という語が1頁中に10個ぐらい並ぶ。頁中のトップ百分位単語百分率でも算出しなければいけないのだろうかという使命感に襲われる。なにもフランス人のまわりくどい言い回しに付き合うこともあるまいて。「上位1%」とでもして、後は「あいつら」だとか「それ」とか言っておけばよいものを。

いや、なに、なんだ、そう結論を急くこともあるまい。フランス流のエスプリに習ってつれづれ綴ってみようではないか。きっとLE CAPITALを読み下した読者の方々ならこれくらいの回りくどさにもつきあってくれるに違いあるまいさ。

さて、この資本論が導こうとしていた結論を考えると、「資本のそれは成長のあれよりもでけぇから、なんじゃかんじゃ、ずっとその差は大きくなっていくよ」程度の事が書かれている。それに物理的な厚みと重量を持たせることで、説得力を獲得できるというリアリズムも同時に学ぶことができるだろう。なんだったら、「ちみは資本論は読んだかね?ふむふむ。」とスノッブな振る舞いをするのにもあの本の厚さは役立つのかもしれない。

だが、しかし、まことに残念なことにピケティさんは予想もしていなかったかもしれないが、この本が読まれている遥か極東2015年の日本なのだ。この国は世にも珍しい、資産のほうが預金よりも伸びるというピケッテイが出しているひとつの重要な結論 (( youtu.be/h7X_vbexeaY?t=12m48s )) が通じない経済圏なのだ。

2015年1月 住宅ローンフラット35 はとうとう1.47%となった。 (( www.flat35.com/ )) リスクフリーレートとも呼ばれるリスクの基準となる新発10年ものの日本国債の金利は応募者利回りで年0.254% (( www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/shinmadohan/issue/ten/h27/January.html ))
そして2014年日本の短期国債取引においてとうとうマイナス金利を記録した。わずか0.0018%であるがマイナスなのだ。言っている意味がわかるかい?国債の金利がマイナスなのだ。
(( www.nikkei.com/article/DGXLASGC30H0V_Q4A031C1EE8000/ ))
一体何がおこっているのだろうか? ピケッティの導いた結論と、まるでここは異次元ではないか。でもここは日本なのだ。この国から眺めたら資本論はどのように咀嚼できるだろうか?

すべてのカラスは黒いという命題に、いとも簡単に反例をあげることができてしまう国だからこそ真剣に考えなければならない。日本人から見れば、この日本でおきたことを無視して、舶来品の21世紀の資本論としてただご拝領いただいて喜んで終わりというわけにはいかないのだ。てやんでぇ、いきがけの駄賃だ、ってんで、おフランス流を噛み砕いて日本の味付けにしなきゃと思えたのである。

つづく

全X回にわたってほぼ日で書き綴ることにした
データ集めてちょっと真面目に書くよ!

[財福主義]タグで書いていきます(予定)


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