丁字形利器はどうみても直角工具


文化庁のあまりおもしろくもないyoutubeをみていた。
その中で、富士山の山麓、伝法古墳群から希少な「丁字形利器(ていじがたりき)」が出たとあった。
用途は不明で、軍事の象徴か、あるいは祭祀用の儀礼用だと考古学者が考えているらしい。

・・・。
用途がわからないものを祭礼用とかでごまかすのはそういうところ考古学者のよくいなところやぞ?
でも、利器と名付けたからには工具との認識もあるのかな?

解説!「発掘された日本列島2020」vol.1 新発見考古速報【文化庁】

いろんな工具とかを見てきた俺にはこれは直角のための工具にしか見えない。
DIYぐらいしかやらない自分でも似たのいくつか持ってる。
一番似ているのは丸のこのガイド。まっすぐに板材なんかを切るために使う。

検索して実物をみてみる。

static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/d/9/f/4/d9f4948e998fe73966a0b63c3db83525_1.jpg

穴が開いている。どうみてもガイドだ。


もし自分が工具もなにもないところで直線や90度の直角を再現するならどうするだろうか?
数学的に直線を書くには、円を2つ書いて、重なるところの線分を結べば直線になる。
円を3つ書いて、交点などを調べれば正三角形や直角をつくれるし、この利器の場合は、ここでできた線分上の直線に同じように2つの円を書けば、直行する線分をつくることができる。

釘かなんかを打って、紐をつかえば円を描ける。
だが、このガイドをつかえば紐や釘をつかわずにいろんな種類の大きさの円や直角を書くことができる。
それが証拠に左側の突起部分は一番大きい円周上に乗るようにデザインされているように見える。
異なる半径を等倍分になるように何種類も描けるようになっているようにすら見える。
そのように作者によってデザインされている。

神社なんかでも、祭祀儀礼用とされる意味のわからないものがいくつかある。
しめ縄とか、鳥居とか。本来の意図は失伝しがちだ。というか幾何みたいなものを言語化している時点で情報量が落ちるので失伝する。
文字や動画などで記録することもできず、寿命が短く、人間の移動も困難な時代。
技術などは形骸化して、様式だけ残る。
だが、見取り見本さえあれば、後生の何人かはまたそこにたどり着くことだろう。

解決方法に苦労して、何かないかなと見回したときに、そこに天啓がごとく先人が残したヒントがあるようになってるわけだ。で、これはいいものだとありがたがったり、ちょっとブラッシュアップして更新されたりする。
これは日本だけでなく世界中の遺跡や宗教施設にはそんな仕掛が多い。

「腕の立つあいつがありがたがっている」で他の人もなんとなく大事にはする。
けど、また形骸化してなんてことを繰り返してきたわけだ。

鳥居のような自立型の構造物には在来工法の要素が詰まっている。
竪穴式とか掘っ建て小屋の基礎、梁をわたす貫とかの構造、屋根を支える垂木をうけるための母屋構造。
家とかになってしまえば見えない構造が必要最低限のたったの2柱で再現されている。

地震がおおい国で2本の自立構造物を建てられる技術があるならば、家を建てるなどということは容易なことだろう。
逆にいえば鳥居すら維持できない災害レベルの高いところで、それを超えられるだけの技術レベルがない地域には家を建ても崩れるほかない。

神社には3つ巴の図柄がある。
いろんな神社にいくと、その土地というか、じつに多種多様な模様となっていることがわかる。
だが、あれを幾何的に再現しようとするとそれなりに大変で円をいくつも描かないといけない。
3つ巴には直接描かれていない円までを見る場合、見えない円まで意識して巴を書いているのか、なんとなくこんな感じというので描かれているのかの違いは実に明確で見ていて飽きない。
形だけ真似たものかの違いは明確だ。

丁字形利器に戻る。

これをつくった人はまちがいなく基礎的な幾何を理解している。
もしかしたら、同じような木製道具があって、これはいいものだと金属化したのかもしれないぐらいには道具として洗練されている。パッと見てとれる以上の機能が詰まっていそうだ。
現代で寸法をSI単位系にそろえて売り出したら大工さんがうまくつかってくれそうなほどには。

きれいな直角を出すのは難しい。
JIS規格の1級の台付スコヤは現代でも二百万を超えるものあるほど。

大菱計器製作所 台付スコヤ(1級右勝手 販売価格(税別) ¥2,290,000

www.monotaro.com/p/5288/4037/?utm_id=g_pla&utm_medium=cpc&utm_source=google&utm_campaign=246-833-4061_6466659573_shopping&utm_content=77481174236&utm_term=_380687092265_x_pla-1070546376152&gclid=CjwKCAiAl9efBhAkEiwA4Toriv08niBGuKjwjR1RKfJISUj50PapLTCnilj3DkEYLaOcCv8jCRMrThoCkhcQAvD_BwE

原器もなかった時代に、原器に相当する直角を簡単につくれるこの利器は、まさに神器がごとき意味があったことだろうと思う。

参考

(4)伝法古墳群(静岡県富士市) 用途不明の希少品 古代軍事の象徴か
www.tokyo-np.co.jp/article/42665


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください