大手門に敵が殺到しているから、門をあけて敵を引き込めば前線崩壊ではない。
ウォールオブマリアが破られても、なに、まだ壁はある。
言っているのはまさにそういう事でしかない。
指定感染症の2類からインフルエンザ並みの5類にすることで、なるほど医療崩壊はしないかもしれない。 だが、それは医療崩壊という言葉の定義を変えているだけ。敗走ではなく、転進といえば負けじゃないといっているのに等しい。
世の言説は明快を好むためか、白黒、明暗をつけたがる。
フェイクだファクトだ、言った言ってない、正だ否だとで揉めがちだけど、下手な嘘にだって真実は散りばめ混ぜられるもの。自然科学でもだいたいの事象はグラデーションだ。花が咲いたという観測をしても、観測者や観測対象木によっては咲いている、散っている、まだ咲いていないなどが入り交じる。
さて、現場で観測している人たちが、「もう限界だ」「これ以上は持たない」と声をあげている。
まず現場の声は尊重しなければならない。
そんなはずはない、病床はまだある。弾は十分にあるはずだ。まだ戦えるはずだとかいうのは、現場の声を見なかったこと、聞かなかったことにしているだけだ。
崩壊にも段階があって、最先端の医療体制のキャパシティオーバーとか、救急の医療体制のキャパシティーオーバーとか、町医者まで死に絶えるとかいろんなステージがある。いま、その最前線の戦線が崩壊しているところだ。
為政者が被害をへらすためにやるべきは法律の定義の変更によるごまかしでなく、ニューヨークのように1,000床からなる野営病院や臨時病院をいくつも建てることだ。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=410AC0000000114_20190914_501AC0000000037
「一類感染症」
エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
「二類感染症」
急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルス)、中東呼吸器症候群(MERSコロナウイルス)、鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ)
「三類感染症」
コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス、
「四類感染症」
E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く)、ボツリヌス症、マラリア、野兎と病、既に知られている感染性の疾病
「五類感染症」
インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
感染症の分類というのは上記のようになっている。
疫病を無為に広げないために、感染症の取り扱い方法が定められている。
なんていうか、法の素人から見ても下手くそな立法文書。「新型インフルエンザ等対策特別措置法」とかもそうなんだけど、法律のなかに直値で病名が書き込まれている、メンテナンス性の低いコードだ。
なので「新型コロナウイルス感染症」が、政令で二類感染症に追加指定された。オーバーライド(上書き)だね。
(新型コロナウイルス感染症の指定)
www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab7336&dataType=0&pageNo=1
なんていうか、プログラマブルじゃないバッチの当て方。つくづく筋が悪い。
まずもって病名に「新型」とかつけちゃうところがセンスないよね。ファイル名に「最新版」「最終版」「納品版」とかいっぱいつけちゃって、どれが一番新しいんだかわけわかんなくなっちゃうやつみたいだよ。
変異でSARS-CoV-3とかになったら、新々型コロナウイルスとかにするつもりなんだろうか?
五類には後天性免疫不全症候群(AIDS)とか、最近日本で感染者が増えている梅毒、麻しん(はしか)とか、危険な病気も混じっている。しかし、ワクチンの開発や国内では一旦は終息を迎えたものが対象で、正直まだワクチン接種率が国内0.001%もないcovid-19を五類にするのは、一個前のエントリ、季節性インフルエンザとコロナの致死率、重症率比較のところでもみてもらった通り、危険すぎる。侮りすぎだ。
四類は、最近国内で14年ぶりに感染が確認された致死率100%の狂犬病、映画とかでもバイオテロに使われがちな炭疽菌が属する。発生例が少ないか、ウイルス性肝炎のように発生件数は1000件近傍あるものの減少傾向にある病気だ。
三類は、下水道などが完備されていない途上国に行く際には、予防接種か旅行保険をがっつりかける必要があるタイプの病気だ。O-157などはたまに国内でも流行が見られる。
二類は、今回の新型コロナウイルス(covid-19/SARS-CoV-2)と、致死率40%とか20%のSARSコロナやMERSコロナがいる。致死率2~4%程度の新型コロナウイルスがここにいるべきかという議論はあろうが、感染爆発をしているとそれだけ変異は頻繁に起きるので、長い目でみれば宿主を殺さない方向に弱毒無害化した株が席捲をするだろが、うっかりSARSのように苛烈なやつになって強毒化タイプに変化しないとも言い切れない。というか、変化するだろう。
現在4000種類ほど変異株が見つかっているというが、イギリス南西部、南アフリカで7割ほど感染力がある変異株がみつかっていて、実行再生算数を0.4ほど押し上げる可能性があるという。金利で言えば40%が80%になる世界線だ。Rt1.8とかになると人口密集地では簡単に感染限界上限に張り付く。そして、感染者が増えれば、突然変異数の可能性も増える。
現在コロナウイルスは7種類みつかっていて、そのうち3種類、SARS、MERS、SARS2(今回の新型コロナ)が指定感染症となっている。
それ以外の4種類は、まあ、普通の風邪だ。
風邪の流行期には35%がコロナウイルスを原因としたものだと言われている。 コロナはただの風邪というのはその側面では正しい。無症状の人もいるし、熱が出ても37.5℃とかなので動けもする。ただ、重篤な肺炎やサイトカインストーム、血栓症をおこすので致死率が段違いというだけだ。風邪なみの気軽さで伝染るけど、インフルエンザの数百~数千倍死ぬ。
まあ、でも、SARS、MERSよりは致死率はそれでも一桁低い。この絶妙なバランスが、なかなか封じ込めることができない理由でもある。季節性のインフルエンザと比較して、けっして野放しにしていいレベルの脅威ではない。無防備で社会免疫を獲得するというノーガード戦法をするとどうなるかは、スウェーデンや英国が率先して挑み、叡智を授けてくれた。同じ失敗を、しかも1年も遅れて後追いで検証する必要などない。
重症化したあとの数字をみると、平均入院日数は40日にも及ぶ。残念なことだが、現在の国内の新規感染者数の推移をみるに最前線の奮闘虚しく医療崩壊は免れない。五類に転進したところで被害状況を改善してはくれない。いまのところ、交差抗体をもっていないために医療従事者も感染するウイルスなのだ。
大型の病院でもクラスターを起こしている。
ノウハウも設備もない街のクリニックにまで戦線を拡大したところで、状況は改善はしてはくれない。
五類から二類にすれば、街のクリニックが感染拠点になって、学習ノウハウが積み上がるのが先か、力尽きるのが先かの勝負となる。
必要なのは言葉の定義変更ではなく、人員と設備そして実行。
医療従事者が足りないから、医師免許を持った教官や学徒、はたまた軍医まで徴用しようとする動きもある。
人的な手当は一時的に改善するかもしれないが、そのあと、人員の教育が止まるので継戦能力が失われ回復しないだろう。種籾まで食いつぶす状態をとらまえて、それでも我が国は医療崩壊していないとはこれいかに。
「アメリカも医療崩壊はしてないじゃないか」というような言説にはめまいがする。
工兵つかってマンハッタンに1000床もの臨時病院つくったりセントラルパークとかに野営病院をあちこちたて、死者の埋葬すらおいつかず冷凍コンテナをつかって保管。これを見て・・・。
・・・医療崩壊していない?
ああ、そうだね、崩壊したのは葬儀屋かなー?
って、ブラックすぎるわーー。
いったいこの一年何をみてきたんだいと。
いったい、なにを学んできたのー。わたーしだって、わたーしだって。つかれるーわ。
米国感染者数1位のニューヨーク州
coronavirus.jhu.edu/data/state-timeline/new-deaths/new-york/0
3月から4月の1つ目の山は感染者数と死者数がリニアにリンクしていて、完全に治療、医療がおっついていないことが見てとれる。概して2波目は、11月頃の感染拡大から2ヶ月以上死者数を抑え込めていて、医療が機能していることが見て取れる。
米国感染者数2位のテキサス州
coronavirus.jhu.edu/data/state-timeline/new-confirmed-cases/texas/0
こちらは2波目も若干は抑え込めてはいるものの、ニューヨークほど勝ててはいない。
ノウハウが溜まってきたこともあるんだろうけど、このコントロールできているかどうかが、医療が機能しているかどうかなんだとおもうよ。
病床数について
ICU等の病床に関する国際比較について
www.mhlw.go.jp/content/000664798.pdf
特定集中治療室管理料(5211床)、救命救急入院料(6411床)、ハイケアユニット入院医療管理料(5412床)
ICU等の病床に関する国際比較についての見解
www.jsicm.org/news/news200510.html
医師数について
医者やナースの数をOECDのデータから調べておいた。2018年のデータで抽出したが、日本がなかったので別途追加した。アメリカは、2018年のデータがなかったので他の年度をもってきた。
stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=HEALTH_WFMI#
日本の医療の現状と国際比較
www.khk-dr.jp/shutyou/031115.pdf
ICU+HCUや医師、看護婦の数を勘案すると、アメリカやドイツとさして遜色はないようにみえるのだが、100床あたりの国際比較にするとそうではないようだ。もしかしたらやたら病床数が多いのかもしれない。コロナ対策病床が2%にも満たないという報道があるが、その実、使えないだけなのかもしれない。
人口あたりの長期医療病床はどうも日本はやたら多いようだ。
平成 30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 医師 327210
www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/dl/gaikyo.pdf
看護職員の現状と推移
www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072895.pdf
看護統計資料 (2016)1,660,071
www.nurse.or.jp/home/statistics/pdf/toukei01.pdf