2015年に読んだ本が大掃除でごそっとでてきたので書評しつつマケプレで売って処分していこうと思う。
2015年はあまり既刊書籍を読まなかったが、web小説みたいのは小説家になろうで600タイトルぐらい糞流し読みした。面白いのもあれば面白くないのもあるのだが面白くなくても単行本で数冊分書き上げている人とかがいて、作者のモチベーションはなんなんだろうかなんてことを考えながら読むとそれはそれでとても面白く読める。
「ルワンダ中央銀行総裁日記」は、「まるで異世界に飛ばされたライトノベルだこれ」と昨年ツイッターで話題になったので、読んでみた。その実はかなり「日本銀行」とは系の出版物に近い。が、硬派である。というより義がある。こういう気概がある人が現代にも居れば、世界はよりいいものになっているのになと思う。現代の日銀マンとかにぜひ読んでもらいたい。というか読むべきだ。
アフリカのルワンダといっても「ルワンダ大虐殺」程度の知識しかない。遠い世界のものと思っていた。まさか、ルワンダの中央銀行二代目総裁が日本人だったなんて。
もう10年ぐらい前になるかな、ルワンダから紅茶を買おうかどうか悩んだ時期があった。(紅茶屋さんなんだよ!)細かくは買ったのだけど正直個人商店が売るには辛いものであったので、仕入れるまではいかなかった。近年はルワンダからのコーヒーや紅茶をよく見かけるようになった。ルワンダで農業政策がまわるように中央銀行があれこれしていてそこに日本からの先輩が活躍されていたなんて思いもよらなんだ。
著者の服部正也氏は1918年(大正7年)生まれ1999年に亡くなられている。
ルワンダまわりの年表とともに抜粋してみよう。
1962 ベルギー ルワンダ独立を承認
1965 服部正也 日銀からIMFへ、IMFからルワンダ中央銀行総裁として派遣
1971 服部正也 帰国 日本銀行 外国局外事審議役
1973 ルワンダ クーデターでハビャリマナ少将が大統領就任
1980 服部 世界銀行副総裁
1990 ルワンダ愛国戦線による北部侵攻
1994/4 ハビャリマナ大統領暗殺
1994/4-6 ルワンダ大虐殺
1994/7 愛国戦線が全土制圧 新政権樹立
わずか1年で”逃げ出した”ベルギーから派遣された前任の総裁にかわり就任することになるのだが、毎朝市場にいってお砂糖などの価格をチェックしてなど、「そこからか!」という中世感は否めない。
食いものにしようと群がる利権商売人、銀行、抵抗勢力への啖呵がかっこいい
P101
まず前任者がどのようなことをやったかは、私には興味のないことだ。
またいきさつなども私にはまったく興味がない。
私は歴史家ではなく実務家なのだ。
私はルワンダの破綻に瀕した財政金融を建直すためにルワンダにきたのだ。
そのためには現状を打破することが必要で、現状是認は私の任務に反するのだ。
新任のザナナ蔵相の人物評がクソミソ
P281
彼はベルギーの一流大学を出た法学士であるが、彼が大学で習ったことは自己弁明の詭弁だけではないかと思われた。
彼の考えでは大臣はなんでも決定できるということらしかった。
彼は(略)予算準則を無視した。(略)条文を無理に「解釈」を曲げて、(略)予算繰越を認めた。(略)調査もせずに入札の無効を宣言した。
彼は毅然と胸を張って「あなたがたは一体私を誰だと思っているのですか。私は大蔵大臣ですよ。私は予算を作り、これを執行し、税金をとる。国庫の資金繰りや、国際収支のことは中央銀行のしごとだから総裁に聞きなさい」
彼は猜疑心が強く、敵か味方かの眼でしか人を見られなかった
亡国の政治家。
立法立案するものが解釈で無双しだすとほんとうにロクなことにならないだなと他国の経緯から学ぶ。日本もあまり他人事ではないが。
ルワンダ大虐殺という悲劇について、存命中に加筆されたようだ。西側の報道でしかしらないので、聞いたこともない説明ばかりで驚きがあるが、ああ、今シリアでやってることだなという既視感もある。歴史は繰り返すのだなと。
P304
ウガンダ支援の偏向報道をした米メディア
「ワシントン・ポスト」「ニューヨーク・タイムズ」
「愛国戦線」があたかも正義の軍であり、フツ族が無条件に悪いといった報道姿勢をとっている。
(略)
「愛国戦線」軍はウガンダで組織され、兵士の訓練も武器の調達もウガンダ国内で行われた
多くのウガンダ陸軍の将校が参加している
かつてハビャリマナ大統領に対するクーデーターに失敗したフツ族の、元ルワンダ軍のアレクシス・カニャレングウェ大佐が亡命しているのにウガンダ軍の将校が軍の指揮をとるのは、その主力がじつはウガンダ軍であるからではなかろうかとの疑問(略)アフリカ諸国ではこれをウガンダによる隣国への武力進攻(略)ルワンダ、ブルンディ両国の大統領が搭乗した飛行機が着陸直前に撃墜
ツチ族の支配する「愛国戦線」のしわざとみて
フツ族によるツチ族の大虐殺
撃墜後ただちに「愛国戦線」軍がルワンダ軍に攻撃を開始
歴史経緯についても説明してくれている。
P309
ルワンダ、ブルンディ両国
ツチ族の王が支配する国
少数派ツチ族はいわば貴族の地位
多数派フツ族は隷属的地位
ツチ族の土地を借りてその牛を飼う権利の代償契約
植民地時代、王政を通じての間接統治によりツチ族支配を強化
入植が禁じられていた西北部へツチ族の進出し多大の摩擦
P322
世界はいまだ力が支配していることを痛感すべきで
一人で祈っても平和は来ない現実を直視すべきである。
国連憲章にもかかわらず、大国は気が向けば適当な大義名分を掲げて、武力で他国を攻撃することや、自分が気に入った他国の党派に直接に、または第三国をつうじて、武器を供給することが公然と行われているのが現実なのである。平和、平和と叫ぶよりは、戦争は必ず起こるものとして、その被害を極限するための自衛策をとり、(略)犠牲を限定するため、武器輸出禁止を大国間で合意すべきであろう。
国際収支のため武器輸出をすることや、累積債務の支払いのため武器輸出で外貨を稼がざるを得ない状況に追い込むことは、資本主義経済の道義的破産といわざるを得ない。
人類の歴史から戦争がなくなった年は一年も存在しない。2016年にもなって北朝鮮が水爆実験をしたそうな。まあ、かの国は中央銀行がどうこう以前のレベルの話しなのではあるが、結局それらの国へも武器を輸出している国があって、外貨を稼がねば国は立ちゆかず、国家がもはやビジネスとして威力を喧伝しなければならない事態になっている。中央銀行の人間が道義的破産状態にあるといわなければいけない事態はなげかわしいことこのうえない。平和平和と太鼓を打ち鳴らすのもただおめでたいお話しではあるのだが、財政を行き詰まらせひもじくくいっぱぐれさせては経世済民などはありえない。まあなんというか日本も武器輸出をしようとしているし、そもそも人口が二倍近くに増えてから数十年すると大きな戦争がはじまるのが歴史的経緯というか、サルだって密度がふえれば縄張り争いおっぱじるってなものだ。人口動態がそのような構成になっている国が近くにあるので心配事は耐えないのだが、そもそも自国においても権力をかさに詭弁をふるい解釈を好きにする人たちもいるし、なんというか、まあ、そういう人たちもいてもいいんだけど、一筋だけでも筋を違えずにいてくれる人も少しはのこっていてくれれば、まあそれほど陰惨な事態にはならんだろうと2016年に期待して本年も宜しくお願いいたします。