格差がと叫ぶものあり。
かのものは共有すれば余るものを分けることに執心し足りないものにしていった。
働かずとも分配されるのであれば働かなくてもよい。
つくっても奪われるのであれば、つくる気力もなくなる。
そして創られるものは減り、分けえるものは少なくなっていった。
権力は富をつくったものよりもそれを分配するものに集中する。
企業の場合、従業員、債権者たる銀行、税をうけとるべき国は債権者たりえるものである。株主は最劣後債権者であるが、利益の処分方法を決定できるのは株主だ。株主は余ったものを最後にとる。分けるものは一番最後に受け取らねばならない。
もし、この順序が逆であったらどうなるであろうか。従業員も雇えず資金調達もできなくなり、生産活動に必要な再投資もできなくなる。次の期に撒くはずの種籾まで食ってしまえば、次の実りはさらに少ないものとなろう。あなたの権力者はどうであろうか?
税引前の当初所得格差
格差はどこで生まれどこで拡がっているのだろうか?
日本の厚労省の所得再分配調査によれば当初所得格差は拡大しているが社会保障費含む再分配所得の格差は縮小してきている。つまり、「稼ぎ」では差がついてきていてるが「分配」後の格差は縮まっている。
格差の議論をするときには、ぜひこの当初所得と再分配所得というものをわけて考えて欲しい。正社員や派遣社員の議論で給与などの待遇面、衛生環境の悪さが話題になるが実際のデータでは稼げなかった人も社会保障による再分配を受けているので結果としては格差は縮められているのだ。
データをみてみよう。
所得再分配調査
www.mhlw.go.jp/toukei/list/96-1.html
このレポートで注目して欲しいのは当初所得50万以下の貧困層の増大である。非正規社員が増えているからだという指摘をするものもあろう。しかし、日本の場合はそもそもが労働資本を持たず、働けない老齢人口が増えている構造だということも忘れてはならない。
OECD諸国中でも、日本はもともと当初所得の格差は小さい国である。
しかし、税による再分配比率はほとんどないため、社会保障で年金などが再分配がなされる老齢層に比べ、低所得の生産労働年齢層(現役世代)の可処分所得の助けにはあまりなっていないことにも注目すべきである。(子育て手当と生活保護ぐらいはあるだろうが・・・)
本来は成長へ回るはずであった財を、介護や地方などの成長が期待されていない部門にまわしていてるのだから、当然成長には悪い影響がでる。
賢人の再投資
スティーブ・ジョブズであったか、はたまたゲイツかバフェットだか忘れたが「あなた稼ぎに比べ寄付が少ない」という問への返答を見てなるほどと思ったことがあった。
「毎年寄付をしていくよりも、私が持っていればどんな年金基金よりもよいパフォーマンスが出せる。死んだときに寄付をしたほうが全体として寄付できる額ははるかに大きくなる。」
例えば、資産の平均成長率が5%の社会において毎年20%づつ資産を増やせるバフェットなみの賢人がいたとしよう。この賢人は資産を将来有望な事業化に助力することができる才能をもっているとする。
この人物が資産1,000万から運用を始めたとすると10年後には6,191万、20年後には3億8,337万、30年後には23億7,376万、40年後には146億9771万と恐ろしいスピードで財が増えていく。[計算式:元本*(1+20%)^年数 ]
だがしかし、この人があげることができた利益をこの人自身が再投資することをよしとせずに、平均成長率5%から飛び出た分は税なり寄付として毎年徴収し平均成長率5%に届かない人たちに分配したとする。40年後はそれはどうなっているか? [計算式:元本(20%-5%)年数 ]
彼が寄付できた金額は40年間の合計で6,000万分になる。彼が5%成長で残せた富7,039万分をあわせても、その差は145億分にもなる。バフェットのように80歳を超えても現役なら、この再投資期間は60年にも及び、5,634億7514万もの差が生まれる。しかも再劣後である株主の取り分としてだけでだ。
投資の話しをすると、どうせ誰かから奪って集めた富なのだろうという了見の人もでてくるかもしれないが、人より多く収穫できる農家でも、鶏を育ててる畜産業のひとでもよい。他のひとより10%ぐらいパフォーマンスがよい人はいるであろう?その人の高パフォーマンスからくる成果を毎年摘みとって収穫し、再投資をさせず、他の一般的なパフォーマンスのところにばらまいて調整したらどうなるかを計算したものである。
高パフォーマンスの人の成果を平均に均せば時間経過と伴に著しい成果差が生ずる。
所得格差と能力差
もし、人の才能や仕事が誰もが真面目に取り組みさえすれば本質的に成果も均一なものであると無垢に信ずるのであれば、開腹手術をするときに医師などつかわず、次に手術を待っている患者におこなってもらう仕組みを提案してはどうだろうか?
能力は残念ながら平等ではない。
技能や才能はいくつもの試験などで量られ教育と訓練でさらに磨かれる。同じ人物であっても赤子のときと壮年期と老齢期では仕事の成果にも差が出る。つまり、個体差もあるし同一固体内でも時間によってことなる。成長率や収益率は固定値ではない。
自由競争社会では能力差によって結果に差が生まれる。
日本でも競走の結果で差がつくようになってきているが、その差は再調整されて、足が早いひとも遅いひとも同じようなタイムになるようになってきているのは所得再分配からの調査でわかってもらえたと思う。
これらの再分配調整が行き過ぎると足の早いひとは遅く走っても一緒だと思うようになるし、足の遅いひとは走らなくてもいいや、走るだけ馬鹿らしいということになる。事実、日本のここ数十年の成長率を見ると超低成長になっているので、既に牛の角は矯められていると言っていい。
再分配所得の格差を縮めるために、成長セクターの成長を衰退セクターを支えるために割り当てるのは成長には負荷になる。どのように富を創りだすかではなく、どこから富を獲ってくるか、お金をひっぱってくるかしか考えないようになる。現状の政治は既にそうなっているようにも感じる。物事の筋としては、当初所得が稼げない人をださないようにすること。つまり貧困者を出さないようにする仕組みを考えなければいけない。老齢で働けなくなった人たちにどう価値創造にまわってもらうかを考えなければいけないのだ。
経済成長と格差には相関関係はあるが因果関係はない。従属変数である格差や貧困率を再分配により下げたところで、当初所得の格差は埋まらない。
経済が成長すれば収入が増えるひとがでてくるので過去と比較して収入差は拡がるかもしれないが、それをさして当初所得格差がうまれたのは経済成長をめざすからだと結論づけるのは間違っている。テストの満点を下げれば最高得点と最低得点の格差は縮まる。それをもって0点をとった子や白紙で答案を提出する子との差が縮まったと喜ぶのは間違ってるでしょうょ。
徒競走をすれば足の遅い人と早い人に差が開くのはあたりまえじゃないか。足の早いひとに重しをつけたり、足の遅いひとに短い距離でいいよとハンデキャップをつけてあげたりすることで、結果の均衡をとることはできる。でもそんな競争で一体何がしたいんだい?
現役世代から摘んで老齢世代の維持のためにつかう。成長分を摘んで限界集落の維持のためにつかう。
それは格差是正だろうか?少なくとも当初格差の是正にはつながらないのではないかと考える。
好むと好まざるとにより我々は生存のために食物などを消費する。その分を生産をしなければならない。この生産量の質と量が生活の余裕である。
早く走れる人を早くは走らせない、競走もさせないというのは、結果の均衡化にこそなれ、そこから産まれてくる結果の質や総量はしょぼしょぼのカッスカスになってしまうのである。個々の成長なくして全体の成長はないのであるから、競走をできる環境と適性なルールが重要なのだ。
つづく
あー、次はトリクルダウンあたりか、才能の比較優位とか人口動態について書こうかな。
希望があればどぞ。
[財福主義]タグでまとめてます。
21世紀の資本論からの参照箇所等
P446 資本収益率の格差
・ポートフォリオ管理の仲介者を雇える
・規模の経済が存在する
・資金がある場合のほうが不確実性を許容できる
P461
まったくの盗窃による財産はなかなかないが、同時に完全な能力による財産もほとんどない。
1987-1994 ビル・ゲイツの前に「フォーブス」ランキングの第一位を占めていた日本の億万長者(堤義明、森泰吉郎)
かれらの資産はすべて、不動産および株式市場のバブルによるものか、芳しくないアジア流の駆け引きによるものと考えられているせいかもしれない
* 堤義明 西武鉄道グループの元オーナー
* 森泰吉郎 森ビルオーナー
日本の1950-1990年の成長は歴史的に空前の水準で、起業家たちが何らかの役割を果たした
P496 社会国家の形
国民所得の4分の1から3分の1を消費している。半分は保険医療と教育、残りはだいたい所得と移転支払い(*13章10 オンラインS13.2)
P498
現代の所得再分配は、権利の理論と、アクセスの平等という原理に基いて構築されている
参考引用など
3 税・社会保障による所得再分配 – 内閣府
www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je09/pdf/09p03023.pdf
日本の所得再分配―国際比較でみたその特徴 太田 清
www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis180/e_dis171.pdf
P.2 要旨
問題意識
経済協力開発機構(OECD)が 2005 年に出した各国の所得格差に関する分析や、
2006 年の「対日経済審査報告」では、日本は政府による(税、社会保障による)
再分配の前の所得では比較的平等な方であること、しかし、再分配が小さいた
めに、再分配後の可処分所得では不平等な方になっていることを指摘している。
また、特に労働年齢層(現役世代)の低所得層に対する再分配が小さいことを
指摘している。
日本の景気回復には格差是正が必要か?
fromdusktildawn.hatenablog.com/entry/2014/11/30/072247
日本の格差はなぜ広がったのか/「ジニ係数」が過去最大に
headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131021-00000001-wordleaf-soci
所得格差の拡大は経済の長期停滞を招く ニッポンは「一億総中流」でなくなるのか
toyokeizai.net/articles/-/44935
限界集落維持のコストは国土交通省が検証へ
いままで限界集落の維持コストの試算すらしたことがなかったようなのだが今度4モデルでするそうだ。NHKのニュースであったがニュースソースが消えている。