すこしだけ未来のはなし。すこしといってもおおよそ10年。科学や技術の進歩でどのように世の中がかわるかというよそくをたててみようと思う。キーになる技術はいくつかあるが、おおきなものは2つ。
演算能力の爆発的向上と応用生命化学分野の開花。
*バイオテクノロジー
おそらくこの10年で倫理的な合意形成の遅れさえなければバイオテクノロジーは研究室の世界から工業の世界へと足を踏み出す。と、同時に人々の倫理観や宗教観、哲学感の根底から揺るがしかねない事象に直面しなければならない。
技術の発展は進むが、法律や倫理が「何がおこるか」を想定できずに後追いになるだろう。その調整にさらに10年かかる。開花という表現にとどめたのは、技術が研究室からでて商業にのるまでにどう考えても時間がかかるからだ。
逆にいうと、安全性やなんやのかんやのと理由をつけて、「あえて」ぐだぐだやらないと危険な分野でもある。性急すぎる変化が民族対立以上の軋轢を生む可能性がある。技術を利用できるものと利用できないもの。理解があるひと・ないひと。先天性形質に分類されるヒトの個体差。この衝突は遺伝子組み換え食品で現れた衝突の比ではない。直情的で直接的だ。
この先の10年に必要なのは技術の進歩だけではなく倫理観の確立と法律の制定である。
そのぐだぐだしている間にも技術の発展はすすむ。ヒトゲノム計画には50年が必要であったが、この10年でわずか2万円で個人の遺伝子検査ができるまでに技術はフラット化した。
その結果、医療だけではなく工業的にもこれらの生体応用技術は転用されるだろう。
インドの赤ちゃん工場(代理出産)やデザインドベイビーが社会問題として認識されはじめているが、このような生命の発生に関わる問題だけでなく、歯の再生のようなものはつぎの10年で導入されうるものだろう。
そして考えなければいけないのが、現在のメカニカルな分野への細胞の転用だ。
仮にこの分野を生体ガジェットと呼ぶことにする。
生体ガジェット、どんなものが考えられるか?
たとえば現時点では電気的なガジェットでは実用化が難しい小型の嗅覚センサー。犬の嗅覚細胞と電子機器を組み合わせたようなものを想像してほしい。回路的に再現するよりも、生体の仕組みをそのまま導入したほうが小型化できる可能性がある。量産や品質精度、耐用年数には問題があるだろうが、細胞がユニットとして出回る未来はこの10年で十分に想定しうるものだ。
乾燥した(乾眠させた)生物の粉(細胞)に、水をいれてすこしの時間振動培養すると使えるようなインスタントラーメン方式のガジェット。嗅覚受容体が匂いをキャッチして出す微弱な電気信号を拾う装置。例えばそんなモノがでてきたとき、ソレを生き物と捉えるか、交換可能な部品と捉えるか?
USBの先にキノコが生えた湿度計がでまわったとして、それを道具とするか天然の菌糸類とするかは人間の議論がひつようだし議論のためには時間が必要だ。そしておそらく議論よりさきに実物が出回る。
*シミュレーティッド・ワールド
演算能力の爆発的向上がもたらす恩恵はいくつかあるが、その際たるものは予見と、微細な兆候の検知、またはその相関関係の発見である。先に書いたバイオテクノロジーの飛躍的な向上もこの演算能力の爆発的向上の恩恵にあずかる。
化学組成をシミュレートできるようになれば素材系の爆発的進化が見込まれる。
水や空気の流れを仮想化できれば、音がしない静音プロペラやジェットフェリー並に早い帆船もできるかもしれない。工場の生産効率もあがることだろう。町並みと人の流れを再現できれば建築物の前に様々なことを試すことができる。都市計画も大きくかわる。
脳のなかで何がおきているかを模擬的にではあるが再現できるようになったのだって現実の環境係数に等しい量のデータを処理できるようになった演算能力向上のおかげだ。
つぎの10年では基礎科学分野、工業分野でこの演算能力の向上が効いてくる。
設計、製造、テスト、運用、評価などというプロダクトライフサイクルが、革新的に変わる可能性がある。
100万回衝突させられた車。
車の衝突実験などでは予測にもとづいて設計し、実際に壊して評価するよりなかった。しかし、物理演算エンジンの演算能力の向上でシミュレーションの精度があがると、設計の段階でこの仮想実験がはいってくる。この運用はすでにはじまっている。
実際の製造や破壊テストはおこなわれないので、低費用で設計を見直すことができる。
中や外の人間の生存確率が一番高いモデルを採用するなど、遺伝的アルゴリズムでの設計などが採用される日は10年以内にくるだろう。
体験→改善したいという欲求→発明
われわれが意識するまえに、問題が解決している未来がまっている。そしてそれは人間の時間の流れからは想像もできない速さで毎秒加速する。
仮想世界の構築は我々人類の時間軸とは離れた世界ができあがることを意味する。
そもそも人間の脳の仕組みなど人を殺して頭をひらいてもわからないのだ。高演算はそれを解決する。つまり人類はその過程を結果としてしか観測しきれない。100万回分の衝突映像を見ている時間は人生にはないからだ。
熱交換、燃焼系、エンジンや発電などのエネルギー変換系、あらゆる分野が時間も費用も少なく試せるようになる。
高演算のために必要なのは環境係数を取得するためのセンサー類、観測系、入力系。おそらく次の10年はここが進化するんじゃねぇかな!
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