知ってるか?紅茶にわさびを入れるとものすげぇ苦い


生姜紅茶もあるんだから、わさび紅茶もあってもいいだろって、少しだけチューブわさびいれて、うぇーええ゛ぇ苦ぇぇえってなった経験、みなさんもありますよね?

「わさびの日本史」という、栽培起源とかを遺伝的系統関係と、文献的検証、がしがしフィールドワークをされていてとても面白い本がある。岐阜大の応用生物科学山根 京子先生の本。

わさびの近縁の仲間(大陸のわさび属植物)は大陸にも自生しているが、日本のようなつーーんとなるような辛味成分を持つものではないそうだ(大陸わさびを食べたことがないので、正確な表現がこれでいいかはわからん)。

わさびは流通する野菜の中では珍しい、日本で栽培が始まった日本原生の在来植物だ。では、わさびの原生地はどこか?いつからわさびが栽培されているのかが謎となる。
現在、日本で栽培されているわさびは、主に3系統で「真妻、だるま系、島根3号」

ちなみにだが、出来合いのお寿司や、わさび風味とか、粉わさびとかでつかわれているものは、「わさび」ではなく、ホースラディッシュ(西洋わさび)で、そもそもわさびではない。種どころか属から違う。遺伝的には一千万年程度前にわかれたグループ。イギリスとかのスーパマーケットでは大根枠で「ホースラディッシュ」が売られているが、これはたぶん・・・違うやつ。たぶん。

科 : アブラナ科 Brassicaceae
属 : セイヨウワサビ属 Armoracia
種 : セイヨウワサビ A. rusticana

科 : アブラナ科 Brassicaceae
属 : ワサビ属 Eutrema
種 : ワサビ E. japonicum

三鷹の大沢と言われる地域では栽培起源が謎い上記3系統から外れる「わさび」が江戸時代ごろから栽培されていて、それが一体どこから来たのか、その謎を解き明かすみたいな研究と復活のフィールドワークがされていて、たまに先生が三鷹にこられて公演するのを楽しみに聞いている。まあそれはそれで面白いんだけど、これはこれで本一冊以上になるので、今回はそこからは離れて味覚、特に苦みの話。ここ数回このブログで書いている味覚と遺伝子、紅茶とコーヒーの話しにつなげる。

ここまでなげぇ枕話。ようやく本題。

赤ちゃんや子供は苦みの感受性が豊かだ。
ハーブティーを飲んで「にがい」と言った子供が居たが、その親御さんや周りの大人たちはその苦みがほとんどわからなかった。多分、ごく少量入ったタイムとかの苦みを感じ取ったのだと思う。
子供は大人にはわからないほどの苦みを感じることができる。
苦みの感受性は、こんな風に年齢でもかわるが、昨今の研究により遺伝子レベルで違いがあることがわかってきている。

ブロッコリーやクレソンなど、ある種のアブラナ科の持つ「苦み」を感知できる遺伝子グループとできないグループがある。

苦みを感じることができるための遺伝子「TAS2R38」と名付けられたそれには、PAV型(高感受性型)のAVI型(低感受性型)があり、”日本では”99.2%ぐらいが三つの遺伝子型 AVI/AVI(18%), AVI/PAV(47%), PAV/PAV(34%)に分類される。

日本でおこなわれた2000人規模を対象とした調査研究では、これらの遺伝子と食べ物や飲み物の嗜好の接触頻度やBMIには違いがみられなかったそうだが、アルコール摂取頻度のみにAVI/AVI型では有意に変化があったそうな。(データを見るとそこまで劇的にというほどでもなかった。)

ちなみに苦みに、低感受性型のAVI/AVI型は消化器がん患者が多いそう(18K18442 研究成果報告書)だが、まあ、これもそこまででもってぐらいの差かな。もしかしたら将来的にはここらへんについても研究がすすんで新しい発見があるかもしれないが、まあ、今はそういう気配があるなぐらいだけ。

この研究では「お茶・紅茶・コーヒー等の嗜好飲料接種頻度」で括られていたが、紅茶屋としては茶葉で紅茶を常飲する層と、したことがない層で、この苦み受容体を調査したらもしかしたらかなりの統計的有意差が拾えるかもねって思った。

「日本では」と注釈したのには、日本には0.8%しかいないマイナーアレルグループが、他のエリアでみると、アフリカ人で28.1%、白人で10.2%、中央アジア人で0.4%の確率で出現するからだ。これで海外で日本人が飯に困ったらインド人街か、中華街に行けと言われる謎も解けるかもしれない。

出現頻度が0.3%ぐらいになると確率分布的にはほぼ±3σの例外値とみなせるが、1割ともなるとそれを例外と扱うには大きすぎる。

苦みに対する感受性で、高感度側のはずれ値、低感度側のはずれ値が社会集団にどれだけ存在しているかは、その文化圏を象るのに重要な要素となる。

漫画には海原雄山だの薙切えりなみたいな神の舌設定の漫画、料理が爆発したり、暗黒物質を作り出してしまうようなバカ舌設定があるが珍しいからキャラ付けできるのであって、10人に1人ぐらいの特徴だと血液型のAB型ぐらい(日本では人口の10%)の珍しさでしかない。ちなみに日本人のRh血液型0.5%だが、これが白人になると頻度15%となる。なんか似たような枠。

さて、血液型の話題も出たらからちょうどいい。
ちょっと遺伝の初歩の振り返り。
両親からA+Aか、A+Oを遺伝していたらA型みたいなんは義務教育で習うと思う。
O+Oの時だけO型になるみたいなの。(習うよね?)

顕性遺伝、潜性遺伝(昔は優性遺伝、劣性遺伝と記述されていたが、優勢と劣勢の字面から意味を取り間違う人の言葉狩りにあい今は顕性と潜性と書くようになっている。)
苦み受容体のPAV型、AVI型も似たような感じで、両親からどちらが遺伝されるかでAVI/AVI、AVI/PAV、PAV/PAVに分かれるわけだ。

もしかしたら「野菜苦い!キライ」なあの子は苦みにごく敏感なPAV/PAV型なだけかもしれないし、「健康にいいから残さず食べなさい!苦くないでしょう甘いじゃない!」っておっつけてる先生はAVI/AVI型でとくに苦みを感じにくい体質なだけかもしれない。

腐敗などによるアルカリ化や自然毒の特徴としても多い苦みやえぐ味。苦みを感知できたほうが生存戦略上優位な環境や時代もある。アブラナ科やらウリ科などの栽培植物が優勢になれば、苦みなどは感知できないほうが生存戦略上優位になる時期もあろう。これが均質的なものになってしまうと、環境変化で一蓮托生に滅んでしまうので遺伝子の多様性が大切なのだ。

フードロス対策でクラフトビール製造時に出る廃棄ホップをなんとか料理に再利用できないかという、挑戦料理を食べたことがある。ひとくち、あまりの苦さに全身の毛穴がぶわわわぁと開いた。最初にビールにホップを入れるようになったのはなぜか? リカちゃん人形の靴が、子どもが飲み込まないよう異様に苦いが、もしかしたらビールの苦みも、子供や動物や菌に食われないようにとそういう工夫が始まりなのかもしれない。

ある遺伝グループにはとても苦くて口にできたものではないが、こちらのグループにとってはぎりぎり大丈夫なラインを攻めれば食料は奪われにくくなる。腐敗には敏感な肉食草原遊牧文化と定住栽培文化の衝突時には非常に重要な要素になるだろう。アブラナ科の遺伝的分岐と栽培起源あたりが興味深そうだ。

苦み、甘み、うま味は共益型受容体のため、知覚に個人差が出やすい(と予測する)。ニホンわさびがその進化の過程で鹿に食われないように辛味を獲得したのと同じように、人間も分岐したのだろう。

苦み受容体をコードする遺伝子(TAS2R)はヒトだけでなく、サルやチンパンジー、はたまたイヌやウシでも持っている。他の遺伝子と比較して、高い種間差異や種内多様性を持っているそうだ。まあ、わさびのように、少し海を隔てただけで保有成分が違うから動物側も適応しないとだめだもんね。

特に日本人はその進化適応の過程で海藻類も栄養素として消化酵素を持つに至った。
そりゃ、わさびの辛味の前駆体である多糖類の味覚感知や、アミノ酸、グルタミン酸などへの感応度が違うなんてこともあろうってもんだ。
優劣ではなく、そもそもが違うということを理解しないまま、インクルーシブだとか、ダイバーシティだとか言っても始まらない。

もしかしたら、ここらへんが、日本人が外国の料理に満足できず料理を魔改造してしまう原因なのかもしれないが、味覚や嗅覚は同じものを前にしても、受け取る信号がヒトによって違くて、その違いを互いに共有できないという前提がある。

チンパンジーは賢いのだが、トイレだけは覚えさせることができないそうだ。
犬猫でさえ排泄には対応できるのに、なんでだろうとおもったら一部の霊長類は嗅覚が退化してるそうなのだ。
彼らは糞からあまり臭いを感じないのかもしれない。

知覚できないものに気を配るのは人間でもなかなか難しい。
甘い、苦い、旨い論争はこれからも続いていくことだろう。

参考、引用元

TAS2R38 の遺伝子多型はヒトだけでなくニホンザルやチンパンジーでも観察される
TAS2R38 の遺伝子多型と食行動及び PTC の苦味感受性変化との関係沼部令奈 1,今井啓雄 1(1. 京都大・霊長研)
www.jstage.jst.go.jp/article/primate/36/0/36_32_1/_article/-char/ja/
www.jstage.jst.go.jp/article/primate/36/0/36_32_1/_pdf/-char/ja

個人の味覚感度の数値化に成功 – リソウ – 大阪大学 ResOU
resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230619_2#:~:text=%E8%8B%A6%E5%91%B3%E7%89%A9%E8%B3%AA%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E3%81%A8%E3%82%8B%E8%8B%A6%E5%91%B3,%E6%80%A7%E3%81%AE%E9%AB%98%E3%81%84%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

ワサビにおける農産物直売所が果たす役割と文化地理学的傾向 ―道の駅の聞き取り調査から― 山根 京子 岐阜大学応用生物科学部
www1.gifu-u.ac.jp/~kyamane/michinoeki.html

ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%82%B5%E3%83%93
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5

キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーは同じ種(B. oleracea)なのに形態は実に多様。これは兄貴分のアブラナ、白菜、カブ(B. rapa)と比較して、遺伝子の可動部(トランスポゾン)が多いがゆえの遺伝子の個体差(構造多型)の大きさによるという発見。この事実を含めて噛みしめると一味違うかな。
twitter.com/VirtualSoil/status/1759182737435766943

味覚受容体と食物成分のかかわり味の感じ方は生き物それぞれ 戸田安香
katosei.jsbba.or.jp/download_pdf.php?aid=1108

PAV/PAV、AVI/AVI グループ間で継続的に有意差が観察された。遺伝子型と食物の苦味感覚及び嗜好性については有意な相関が見られなかったが、苦味が強いものほど嗜好性と負の相関が見られる傾向にあった。
kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-15K14728/15K14728seika.pdf

18K18442 研究成果報告書
kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-18K18442/18K18442seika.pdf

霊長類における苦味受容体遺伝子の分子進化と生態適応 京都大学霊長類研究所 早川卓志
TAS2R の塩基配列は一般の遺伝子に比べて、高い種間差異や種内多様性を持っている。更に、個体間のコピー数変異や種間のレパートリー数の差異も非常に高い。
repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/199153/2/drigk04102.pdf

嗅覚受容体遺伝子の比較が明らかにした霊長類嗅覚系の退化
www.jst.go.jp/pr/announce/20180411/index.html

血液型について
www.bs.jrc.or.jp/kk/hyogo/donation/m2_02_01_00_bloodtype.html


なぜ化学調味料は毒だという言う人は後を絶たないのか


義務教育の敗北とは言うけれど、義務教育ではやらないようなことまでちと踏み込んでみると違う感想をいだくかもしれない。

昨日ひさかたぶりに更新したブログで味覚や嗅覚のお話しをした。味覚嗅覚障害で味や匂いがしなくなった人もいるかもしれないが、もしかしたら「それが普通ですけど?」の人もいるかもねというようなお話しだ。同じものを食してもそもそも味覚受容体に差があるのだから、感じ方が違う。

この味は好きだとか美味しいとか、そういう好みの感想ではなく、そもそもその味覚を感知できていない可能性に触れた。だから紅茶はコーヒーに比べると不遇だと。目が悪いので細かいのとか遠いのはそもそも見えてないけど、味覚や嗅覚にメガネに相当するものが無い以上、個人間でそれらを共通のものとして比較しあうことはナンセンスだ。

人間が味を感じる仕組みだが、舌というセンサーが刺激をうけとって、それを伝達する神経回路を通って、それを脳みそが記憶などとぶつけて照合する。

人間の味覚には5つあると言われていて(最近では6つ目の脂肪酸を感知できる神経回路があるとも研究がすすんできている)、塩味、酸味、甘み、うま味、苦みである。

このうち、塩や酸味はイオンチャンネル型受容体で、甘み、うま味、苦みはGタンパク質共役型受容体となる。

これを模式的に説明するのはしんどいが、イオンチャンネル型は通過したのをピコーンって検知する、電気回路に例えるなら電球型。タンパク質共役型受容体型は電線の上に方位磁石をおいて、磁石がうごくようなら電流がながれているのを検知するみたいな構造に近い。(あってる?)

電球型のほうがシンプルなので、壊れにくいし、点く点かないなので検知も簡単だ。共益型は磁石がだめになったり、電線と磁石の距離が離れすぎていたり、磁石がうごいたのをちゃんと見てなかったりと要素が増えるので精度の差が出やすい。

で、うま味調味料のお話し。
これは、うま味を足すものである。

なので、うま味の分解能が低い人がつくった料理を、うま味の分解能が高い人が食べると、「こりゃ毒だ!」ってなる量を、添加してしまうことがある。

これが塩なら、あまり舌に個人差が出ないので、
「しょっぱすぎるよ!」「そうかなー?」とはならないが、うま味の場合は、ある人にとっては「舌がピリピリするほど」で、ある人にとっては、それでようやく「うま味」を感じ始める程度だったりするのである。

で、たっぷりとうま味を足された料理を食べた人は、びっくりして「この料理をつくったもんを出せ!」となるわけだ。で、やはり人口調味料が原因か!!という「体験」を積んでいくのである。実際には口にだして文句を言ったりすることは少ないだろうが、なるほどこれがうま味調味料かと認知していくわけだ。

天然の素材からうま味を抽出しても、そこまで暴力的なうま味の濃度にすることはできない。
だから、「あんなものは体に悪い」は、彼ら彼女らの実体験としての蓄積でもある。

同じようなものに、「人工甘味料は体に悪い」というような言説もある。
本当に体に悪いかどうかはおいておいて、あれも、人工甘味料を舌で認知できる人とできない人がいることが最近の研究で判明してきている。
苦み受容体の遺伝子の働きによるものなので、これも訓練でどうにかなるものではない。
人工甘味料が入っているとすぐわかる人と、まったくわからない人にわかれるのだ。

「全然違うじゃん!!」といっても、全会一致とはならない。だって、そもそも違いがわからない人がいるんだもん。

同じ程度に紫外線を浴びても火傷を起こす人と適度な日光浴でビタミンDがつくられて健康になる人がいるように適量は人によって異なる。

悲劇なのは、双方において、わからないのをわかっていないことだ。

ほうじ茶に昆布の切れっ端を入れて飲むとおいしい。
それくらいのうま味で十分な人もいれば、味の素だぱーって入れたほうが美味しいっていう人もいる。
積んでいるセンサーが違うのだから、同じ感想にはなりえない。
時にそれは「毒盛りやがって」という感想になる。

特に、「甘み、うま味、苦み」は、その機構から、より個体差が出やすく、感応性が人によって異りやすそうだ。それらは受容体遺伝子は複合体なので、片方がノックアウトしたりしていたり、発現がうまくいってなかったりすると結果の活性の強さには大きく差が開く。

同じようなことは嗅覚受容体にも言える。だが、先天的な複合型の受容体遺伝子の問題なので、時にそれはセンシティブな問題になることも将来的にはあろう。義務教育の敗北というが、義務教育から卒業した人たちは、そもそもが違うということを理解しておくことが大事だ。

日本の場合は、遺伝子の個人差があまりないので、この甘さは生命に危機を感じるほどなので無理ですっ!!となるようなことはあまりないが、これが人種をまたぐとそうも言ってられなくなる。
真皮や新皮質の厚さは人種(遺伝)によって異なる。体重差の関係で浸透圧で無事でいられるイオン濃度も異なる。複合的な要因で、食は生存の危機にも直結する。

サミルアッキやマーマイトを常食して無事でいられる日本人は少ないかもしれない。(←これはただの冗談ね?)

参考やら部分的引用メモ

ヒトのT1r1+T1r3系では、イノシン酸はグルタミン酸の応答のみを特異的に増強する
イノシン酸はグルタミン酸応答
アミノ酸応答を増強する

L.Buckらは、1999年に嗅覚受容体がGTP結合タンパク質共役型受容体であることを明らかにして、ノーベル賞を受賞

味細胞から、2つの新しい受容体遺伝子 (T1r1とT1r2)が同定

「アミノ酸結合部位以外の領域で決定される受容体の活性の強さ」

うま味の相乗効果は,ヒトのみならず,マウス,ラット,イヌ,ネコ,サルなど哺乳類で広く共通して認められる。

味覚受容体の種類や機能には動物種ごとに違いがあ
ります.一方で,同じ動物種内でも味覚受容体遺伝
子の多型により,特定の物質に対する感度が異なっ
たり,場合によっては全く感じなくなったりと個体
差が生じます.

AVI型(低感受性型)の
TAS2R38をもつ人は,ブロッコリーやクレソンなど
のアブラナ科の野菜の苦みをあまり感じないという
報告もあります

感受性の違いは味覚受容体だけで
なく,嗅覚受容体にも生じます.みんなで一緒のも
のを食べていても,味や香りの感じ方はそれぞれの
人で異なっている可能性が高いのです

メチオナール以外にも,香気成
分が味覚受容体に作用する例として,コーヒー中の香気
成分が苦味受容体の活性を抑制することが報告されてい

15) B. Suess, A. Brockhoff, W. Meyerhof & T. Hofmann: J.Agric. Food Chem., 66, 2301 (2018).

うま味受容体
www.umamiinfo.jp/what/attraction/receptor/

旨味受容体T1R1/T1R3のアミノ酸選択性を決定する分子メカニズムの同定
www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2014/20140109-1.html

うま味受容機構と嗜好性
www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/96/12/96_12_829/_pdf/-char/en

機能解析技術が明らかにした味覚受容体と食物成分のかかわり味の感じ方は生き物それぞれ 戸田安香
www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/57/2/57_570210/_pdf

味覚受容体
bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%91%B3%E8%A6%9A%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

料理研究家リュウジ氏、味の素めぐり「金があるなら昆布が…」の声に「義務教育の敗北を感じた」
news.yahoo.co.jp/articles/45027695e530e051763275a72d54d44c1509526a


喫茶店の紅茶があれなのは舌や鼻にメガネみたいな補助具がないからさ


紅茶チェーン店が成功しないのはなぜなのか?
紅茶にコーヒーフレッシュでミルクティーがまかり通るのはなぜなのか?
そんなのがSNSで話題になってた。

一応、紅茶屋なので、口を挟みたくなった。長くなりそうなので、Xじゃものたらん。
でも、お店のほうのブログはもう数年更新もしてないし、このブログもサーバーの更新請求がきてて思い出したぐらいで7ヶ月ぶり・・・、だけど、まあ、よろしくお付き合いください。
紅茶とコーヒーをマーケティング観点から市場分析したこともあるけど、今日は人体の生理学的な観点から。

外食の味付、匂い付け

外食産業では味付けは甘じょっぱくするのが基本だ。
だが、甘すぎても辛すぎても浸透圧の関係から生命の危険を感じ始める濃度がある。
塩味、甘味もやがて飽和に達すると、今度はうま味で工夫するようになる。
そして、第6の味覚ともいわれる「脂肪味」、油マシマシ、オリーブオイルだばーになり、それすらも限界に達すると、今度は味覚ではなく痛覚、つまり「辛味」や炭酸のようなシュワシュワな刺激、はたまた噛んだときの食感やら喉越しみたいなもので特徴づけをするようになる。あとは視覚とかね。

香り。
動物は生存戦略の関係から焦げ臭さに敏感だ。特にタンパク質や炭水化物、油分が焦げる匂いにはごく敏感に反応する。
そして、腐敗臭、卵の腐ったような匂い、つまり硫黄臭にも敏感に反応する。だからどんなに、花粉症で鼻が詰まってもごくごく僅かに添加されているだけのチオール(ガス漏れの匂い)がわかるし、チーズ臭や焦がしねぎにんにく背脂ちゃっちゃの香りまでわからなくなる人はあまりいない。

同様に、味覚の中でも腐敗や毒と関係している酸味や苦みまでわからなくなる人は少ない。
加齢により苦みが分かりづらく、脳がアルコール代謝系にはいると酸味を好むようになるが、それでもまあ、どんなに二日酔いタバコやらで匂いも味も鈍化していたとしても、コーヒーの香りをわからない人はいないし、昭和ながらの酸っぱ苦いコーヒーの味までわからなくなるなんて人はまあ少ないのである。

これらはプレーンな紅茶にはないものだ。
だから、市販の紅茶飲料は柑橘系の香りを足したり、乳脂肪分を足したり、極限まで甘くすることで特徴づけをされる。

味力、嗅力

紅茶やらハーブティーやらを扱ってきてつくづく思ったのは、人の視力に違いがあるように、味覚や嗅覚にだって個人差があるということ。これは、努力とかではなんともならない、センシティブな部分も一部含むので、ちょっと説明や喩えが回りくどくなるかもだけどごめんして。

現代なら味覚を視力のように数値化するのはやろうと思えば簡単にできる。
例えば、お酢、砂糖、塩を溶かした溶液を希釈などして、何倍薄めたものまで、どれがお酢だとか当てられるかみたいな格付けチェック。こういうのを二重盲検でやってもらうだけで定量化はできる。脳波で反応をみてもよい。

でも、味覚や嗅覚は定量化、数値化することに意義が見出されることはなかなかない。

なぜか、視力ならメガネ、聴力なら補聴器みたいな矯正器具があるが、味覚や嗅覚には今のところそれらを補助する道具はそもそもない。
だから、その能力を定量化して計ったとしてもしようがないことだからである。

色の区別がつきにくい色弱、色盲というものがある。
赤色の感度が弱ければ、焼けた肉と生肉の色の違いをとるのは困難だ。
他方、通常の常人の100倍程度の色の見分けができる4色型色覚を持つ人なども居る。良い悪い、優れているだの劣っているだのではなく、人の特性は様々だという話。
その様々をあえて優劣という順にして並べたら、おそらくはそれらの出現頻度は身長のような感じに統計上は正規分布をとる。

おそらくと表現したのは、例えばこれに年齢や人種、職業などの生活様式で多項分布になりうるからだ。視力6.0が最頻値みたいな自然豊かなところで暮らす部族と、メガネばかりの理系学生みたいな偏った母集団を混ぜるなキケン。

遺伝子と色覚

人間の遺伝子は約32億塩基対から構成されるが、このうちわずか2箇所の文字が違うことにより瞳の色が決定される。青い色だったり茶色だったり。これは、虹彩のメラニン量の違いによるものだが、このメラニン色素の差が紫外線への感受性への差につながる。

赤道付近の金ピカの仏像やら、ネオン街、派手な看板、極彩色ごちゃごちゃした配色の町並みと、北欧とか極北の町並みの色使いの差は、単なる文化コード上だけの問題ではなく、そこに住まう人たちの遺伝由来の紫外線への感応性の差からきた指向性でもある。だから逆にはならない。

日本のように遺伝子プールが狭く、画一的な教育をうけた文化圏で生活をしていると、それらの差が、ごくわずかな比較可能な個人差となる。
日本人の場合は遺伝子的にも北と南からの流入組があるので、価値観は分かれることがあるが、まあ、同レギュレーションという前提でどんぐりの背比べをしているだけだ。世界は広いのでその前提となるレギュレーションが同一ではないことがあるということは少しだけ覚えておいてほしい。

遺伝子と味覚

さて、わかりやすく色覚をとりあげたが、同じように味覚にも遺伝子由来の差がある。

近年、人工甘味料への苦味反応における遺伝子差が発見された。
舌の受容体そのものに差があって、わかるひとには明確に違うし、わからない人にはわからないものだったのだ。そりゃ話しが噛み合わないよね。

我々の科学力はまだ、味覚において視覚における色弱と同じレベルの概念の発見にすら至っていない。

もともと積んでるセンサーのレギュレーションが異なる上に、それを受け取る脳も違う。これに生活習慣や、ウイルス感染症やら、重金属や化学物質暴露なんかで受容体のセンシングも変われば、あの人が感じている味と、この人の味が実は同じものではない可能性がある。

皮膚も違う。
他の人種と比較して、表皮は薄く真皮と皮下組織は厚い日本人。舌の味蕾にもその影響がでている可能性もある。

先天的、後天的

1枚の絵画を前に、色弱の人と4色型色覚の人では、見てるものは同じだが、見えているものは違う。
これは先天的なものだ。

爆音を聞き続ければ難聴になる。それがごく一時的なものなのか、数ヶ月で治るのか、はたまた、もう戻らないなんてこともあろう。こーいうのは後天的なものだ。

音の聞き分けや、色の分解能が人それぞれであるように、味の分解能の差が舌の受容体レベルで違うなんてことが多いにありうる。

ある種の感染症の後遺症による嗅覚味覚障害や、亜鉛不足など、味覚障害はいつなんどきでも起こり得る。
舌が馬鹿になったとか、味音痴なんて言葉はあるが、大抵はその人の前後の変化で、他人との比較で定量的に計測されることはない。

最初からわからない人には関係ないものなので、味覚を補助矯正してくれる道具や薬が生まれるニーズもないだろう。腹がふくれればいい。それだけがニーズの人もいる。

だから、食品開発をする場合は味付けは大衆向けマス層を狙って、味付けはきっぱりはっきり、そして香料をしっかり足すことになる。

おわりに

外国で日本人が料理にうんざりしたらインド人街か中華街にいけば間違いない。
日本人は味覚や嗅覚については相当なうるさ側の人種だ。日本以外で日本人が求めるそのクオリティにたどり着けることはまずないとほぼ断言できる。

香りが強く、味がわかりやすいとされるコーヒーでさえ、日本でのそれは別格だ。

闘茶やら香道など、それらをゲーム化できるのは同じようなレベルの人たちがいるからだ。
生命の危機を感じるほど甘すぎるお菓子や10分前に通過した人の香水の残り香で苦しむこともない。
牛乳やチーズなど、関税由来で触りがある分野もあるが、どんな料理も日本にもってくれば間違いがない。

だが、そんな日本でさえ、紅茶には不満を覚える人たちがいる。
売れている商品、はたまた売れなくて消えていった商品を見ると、ノンフレーバーで砂糖もミルクも足さずに、チャノキ品種ごとの煮出し汁の味の違いなんてのを楽しむことができるのは、少なくともマス層ではないからだ。

繊細すぎる分解能を持つ舌と、マス向けの味付けの利害衝突が発生している。

枯れたチェロの深みのあるビブラートを生音で聞きたい人と、こまけぇこたいいから体が揺れるほどのサウンドでフロア揺らしてくれる?って要望が同じ会場にいるようなものだ。同存しえない。

だから、もし、美味しい紅茶を飲みたければ紅茶屋をやるのがよろしいかと結論づけておきます。
でも、それはマス向けにはならないから、茶や塩にこだわると身代を潰すって諺とご一緒にご案内。

まあ、ここらへん、行き過ぎると、なぜワインが高級化するのかと似たようなものがある。
本当は違いなどわかっていなくても、知識で無双して、違いがわかるんだぞと騙れるからさ。
だって、舌や鼻にメガネはないからね。

参考

genetics.qlife.jp/tutorials/Genetics-and-Human-Traits/Is-eye-color-determined-by-genetics

dm-net.co.jp/calendar/2019/028900.php#:~:text=%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AB%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%82%8C,%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%82%82%E3%81%97%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82

jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201202216168784210