月: 2024年3月

  • フライパンのシーズニングをペラ1枚まとめたのと深堀り

    フライパンがくっつくようになってしょうがねぇってんで、買い直そうか、テフロンを貼り直そうかみたいな事を言うのを聞いて、鉄のフライパンだし、もったいねぇなシーズニングしたらいいじゃないと言ったのだが、口頭での説明では伝えきれる気がしなくてA4用紙にまとめて渡せるようにしておこうと思った次第。

    というのも、シーズニング、ぐぐってyoutubeの動画でも見れって感じではあるのだが、実際ぐぐってみると余計な情報が多かったり、科学的にみて謎の論理が展開されていたりするので、なんかキケンが危ない。
    あらためて簡素にまとめておく必要を感じた。A4用紙1枚に印刷できるようにPDFにしておおくので適当につこーてください。これで情弱でも大丈夫!

    フライパンのテフロン貼り直しは、飲食店のプロがやってるってのは聞いたことがあるけど、家庭用のフライパンなら買い直したほうが安くすんだりするので本末転倒。でも、鉄フライパンを使い捨てるのはもったいないので、まずシーズニングを試しみよう。

    シーズニングとは?

    種(seed)油をつかったフライパンへのseedsing(タネ付け)だとおもっていただが、改めて調べてみると、seasoning(調味料、味付け)と綴るよう。フライパンへの味付け的な意味。ダジャレかもしれんけどね。

    手順

    用紙1枚にまとめたフライパンシーズニングあんちょこ

    [PDF]

    https://kuippa.com/blog/wp-content/uploads/2024/03/seasoning.pdf
    ダウンロードはここから

    油慣らし、シーズニングとは?

    フライパン表面に油の乾燥膜をつくって焦げ付かないようにする昔からの技法。
    種(seed)油をつかったフライパンへのseedsing(タネ付け)ではなく、seasoning(調味料、味付け)とつづる。フライパンの下ごしらえ的な意味。

    用意するもの

    ・ 食用植物油、菜ばし、キッチンペーパー

    1. フライパンをお湯で洗い流す
    2. 弱火で空焚きをする
    3. 熱いうちに食用油を塗る
    4. 再び弱火~中火で空焚きをし、煙が出るまで加熱する
    5. 火を止め冷ます。冷めたら3~4の工程を数回繰り返す
    6. 野菜くずなどを入れて炒める(酸化した油の匂いとり)
    7. 最後に油を塗り、完全に冷めてから収納する
    8. 調理使用後は洗剤をつけすぎぬようにして洗う
    9. 焦げ付くようになったら再び1から

    おすすめされるヨウ素価の高い油(乾性油)

    値段も手頃で入手しやすいおすすめはぶどうサラダ油(グレープシードオイル)

    油脂名 ヨウ素価
    サフラワーサラダ油(ハイリノール) 136~148
    ぶどうサラダ油 128~150
    大豆サラダ油 124~139
    ひまわりサラダ油(ハイリノール) 120~141
    綿実サラダ油 105~123
    ごま油 104~118
    とうもろこしサラダ油 103~135
    なたね油 94~126
    こめサラダ油 92~115
    サフラワーサラダ油(混合品) 80~148
    オリーブ油 75~94

    注意書き

    ・ヨウ素価とは油脂100gに付加することのできるヨウ素のグラム数のことで不飽和度の高さ。
    ・動物性の油はヨウ素価率が低くシーズニングにはおすすめされません、ラード(52~72)、バター(23~28)、マーガリン(74~91)
    ・油が煙を出しはじめる温度は200度、370度で発火。テフロンの使用上限260度、350度から熱分解。コンロ焦げ付き防止用自動消火機能250度。
    ・近年の食器洗い洗剤は油膜を分解する界面活性効果がとても高いので、洗剤でゴシゴシすると油なじませも剥がれます。
    ・焦げ付き防止のテフロン、フッ素樹脂加工は長年の使用のうちにコーティングが剥がれます。そのためシーズニングをして再び焦げ付かないようにもできるが、逆に空焚きでテフロンが余計にはがれるので見極めが大切。表面が傷だらけになった安物のステンレス製フライパンなどは買い直したほうがよいケースもある。

    補足情報(アペンディクス)

    ここより先は情強向け付録

    乾性油と不乾性油

    油絵をやるひとなら乾性油とか不乾性油とかは馴染があるかもしれない。
    手元に買って1年なにもしてない「リンシードオイル」があるが、これには「乾性油」と書かれている。
    「乾性油」と「不乾性油」というものもあって、不乾性油は硬化(乾燥)しない、しにくい。不乾性油で絵の具なんかを溶くと何年も乾かずずっとべたべたするものになってしまう。
    ちなみに溶剤につかわれるテレピン油は松精油(元来はテレビンノキの樹液)で揮発性の油。
    ブラッシクリーナー(筆洗油)なんかも揮発性。アルコールやガソリンだのも揮発性。
    サラダ油だのオリーブオイルだの植物油なんかはは不揮発性だけれども、その中に乾きやすいものと乾きにくいものがあるという感じ。

    日曜大工とかDIYで木材の加工をする人なら、ニスやワックスと並んで、オイルステインというものを聞いたことがあるかもしれない。表面に油塗って木に染み込んで使うタイプの保護剤。

    ニス、ペンキ、漆などはアクリル、ウレタンみたいに乾性油+樹脂→蒸発後硬化で表面を保護するタイプ。
    ワックスは蜜蝋やシリコーンなどで表面を保護膜、保護層をつくって表面を守るタイプ。
    オイルステインや柿渋なんかは、油分などが内部に染み込み+表面保護で防虫、防腐効果を狙うもの。

    縄文杉が数千年形を崩さないように、樹脂分が多く目の詰まった木材は経年劣化しにくい。高級楽器や仏壇などにつかわれたりする。無垢の木材を長持ちさせたい場合、油分を補うとその効果が少し補填できる。枯れた木材から水分が飛びきって植物の細胞壁が破壊され、ボソボソになり、ささくれだつのを防いでくれる。

    数日で乾くオイルステインなどの代わりにオリーブオイルのような不乾性油を使うやりかたがないわけではないが、ずっとベタベタ油がつくのを我慢するか、我慢しきれずに拭き取ってしまうことになるが、まあ水弾き目的であればそれで十分かもしれない。

    ヨウ素価について

    乾性油と不乾性油はヨウ素価の高さによって決まるそうだ。
    いろんなシーズニングのホームページを見て、意味わからん説明が溢れまくってたり、説明を諦められていたりする部分が多いのはこのヨウ素価。

    化学を勉強したことがある人だと「は?I(ヨウ素)が油の乾湿にどう関係あんのよ?」となるかもしれない。
    実際自分も意味がわからなかったので詳しく調べてみた。

    「ヨウ素価とは、油脂100 gに付加することのできるヨウ素(I2)のグラム数です。この値が大きいほど試料中の脂肪酸の不飽和度が高い(二重結合の数が多い)ことを示します。」(農林水産省のホームページ)

    つまるところ、不飽和脂肪酸かどうかをヨウ素がどれだけ溶けるかで代替して数値化したにすぎない指標をいいたいだけのようだ。不飽和度がどうかって言ってくれよ・・・。ヨウ素言うから、グリニャール反応で鉄とヨウ素が反応して被膜が作られるのかと思って、ヨウ素の多い食材を調べたりして迷走しちゃった。

    植物性油のヨウ素価

    JAS規格で定義されている植物性油を「ヨウ素価」降順に並べておく。
    なぜかJASではヨウ素のことを「よう素」と表記するようだ。謎。

    精製を含まないJAS規格植物性油うち、よう素価 最小値 降順

    | 油脂名 | けん化価 | よう素価 | 不けん化物 |
    | サフラワーサラダ油(ハイリノール) | 186~194 | 136~148 | ≦1.0 |
    | ぶどうサラダ油 | 188~194 | 128~150 | ≦1.5 |
    | 大豆サラダ油 | 189~195 | 124~139 | ≦1.0 |
    | ひまわりサラダ油(ハイリノール) | 188~194 | 120~141 | ≦1.5 |
    | 綿実サラダ油 | 190~197 | 105~123 | ≦1.5 |
    | ごま油 | 184~193 | 104~118 | ≦2.5 |
    | ごまサラダ油 | 184~193 | 104~118 | ≦2.0 |
    | とうもろこしサラダ油 | 187~195 | 103~135 | ≦2.0 |
    | 綿実油 | 190~197 | 102~120 | ≦1.5 |
    | なたね油 | 169~193 | 94~126 | ≦1.5 |
    | なたねサラダ油 | 169~193 | 94~126 | ≦1.5 |
    | こめサラダ油 | 180~195 | 92~115 | ≦3.5 |
    | 落花生油 | 188~196 | 86~103 | ≦1.0 |
    | サフラワーサラダ油(ハイオレイック) | 186~194 | 80~100 | ≦1.0 |
    | サフラワーサラダ油(混合品) | 186~194 | 80~148 | ≦1.0 |
    | ひまわりサラダ油(混合品) | 182~194 | 78~141 | ≦1.5 |
    | ひまわりサラダ油(ハイオレイック) | 182~194 | 78~90 | ≦1.5 |
    | オリーブ油 | 184~196 | 75~94 | ≦1.5 |
    | 食用パームオレイン | 194~202 | 56~72 | ≦1.0 |
    | 食用パームステアリン | 193~205 | ≦48 | ≦0.9 |
    | 調合油 | – | – | ≦1.5 |
    | 調合サラダ油 | – | – | ≦1.5 |
    | 香味食用油 | – | – | ≦5.0 |

    参考までにけん化価でも並び替え。
    不飽和ゆーてもアルカン、アルケンを酸化してカルボン酸エステルのアルカリ置き換えなのでけん化価と、よう素価ある程度は重なるのかとおもったら、そんなに重複してなさそう。

    精製を含まないJAS規格植物性油うち、けん化価 最小値 降順

    油脂名けん化価よう素価不けん化物
    食用パームオレイン194~20256~72≦1.0
    食用パームステアリン193~205≦48≦0.9
    綿実サラダ油190~197105~123≦1.5
    綿実油190~197102~120≦1.5
    大豆サラダ油189~195124~139≦1.0
    ぶどうサラダ油188~194128~150≦1.5
    ひまわりサラダ油(ハイリノール)188~194120~141≦1.5
    落花生油188~19686~103≦1.0
    とうもろこしサラダ油187~195103~135≦2.0
    サフラワーサラダ油(ハイリノール)186~194136~148≦1.0
    サフラワーサラダ油(ハイオレイック)186~19480~100≦1.0
    サフラワーサラダ油(混合品)186~19480~148≦1.0
    ごま油184~193104~118≦2.5
    ごまサラダ油184~193104~118≦2.0
    オリーブ油184~19675~94≦1.5
    ひまわりサラダ油(混合品)182~19478~141≦1.5
    ひまわりサラダ油(ハイオレイック)182~19478~90≦1.5
    こめサラダ油180~19592~115≦3.5
    なたね油169~19394~126≦1.5
    なたねサラダ油169~19394~126≦1.5
    調合油≦1.5
    調合サラダ油≦1.5
    香味食用油≦5.0

    ・キャノーラ油は菜種油のこと
    ・サフラワーはベニバナのこと
    ・グレープシードオイルはぶどうサラダ油のこと
    ・アマニ油やえごま油は、一般には乾性油とされているが、JAS規格植物性油表にはなかった

    動物性についても一応調べたのでこちらは並び替えせずに種類ごとに列挙。マーガリンは日本国内の製品調査研究より、ショートニングは日本のヨウ素価率がみあたらなかったので米国製品を研究した論文より数値抜粋。

    油脂名けん化価よう素価不けん化物
    純正ラード55~70
    調整ラード52~72
    ソフトマーガリン74~91
    高リノール酸マーガリン93~120
    バター23~28
    ショートニング(植物タイプ)188.7~191.881.1~94.3
    ショートニング(動物タイプ)194.8~197.055.4~62.4

    ・精製ラードは純正ラードと調整ラードを含んだもの

    cf.
    食用植物油脂の日本農林規格 (主なJAS規格値)
    日本農林規格 JAS 0988 精製ラード
    マーガリン類の日本農林規格
    市販家庭用マーガリンの脂肪酸組成に関する調査
    米国における家庭用ショートニング及びラードの性状
    など、詳しい引用元は当記事末にだらりと列挙

    酸化被膜

    鉄の酸化で安定状態は主に2つ

    Fe2O3 三酸化二鉄(赤錆)
    Fe3O4 四酸化三鉄(黒錆)

    赤錆は不安定なので、鉄から赤錆が出てしまうと鉄自体がぐずぐずになる。
    黒錆は鉄の表面で緻密な被膜を形成し、内部の鉄を保護する。
    赤錆を一酸化炭素で還元してやれば黒錆になる。
    空気(酸素)、炭素(油分やガスや炭)が十分にある環境下で加熱してやれば黒錆被膜が得られる。
    フライパンをよくよく熱して空焚きすることで、黒錆の酸化被膜が作られる。
    よく育てたフライパンは黒いのはこのため。

    刀鍛冶のyoutube動画などをみてて思ったんだけど、藁灰のような炭素を足す工程とか、高温の炭に水をかけて水を水素に分解して燃やしてるのとかをみると、炭素還元やら水素還元などを多様して表面被膜を還元して黒皮に変えてるんじゃないかなって思ったりもした。もしかしたら鉄内部に炭素を織り込んで、格子欠陥をつくるためかもしれないが・・・

    参考、引用

    https://yurupan-life.com/oliveoil_useless_for_seasoning/
    https://store.iwatetsu.jp/blogs/back-number/vol36

    分子変換と化学産業を変えた Grignard 反応剤 ―その基礎と最近の応用展開―
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/4/67_176/_pdf

    Grignard 反応剤(グリニャール反応剤)は有機ハロゲン化物と金属マグネシウムから調製され,炭素と金属の間に結合を有する有
    機金属化合物の一種である。1900 年にフランス人化学者 Victor Grignard によって初めて合成された。Grignard 反応剤を用いることで,
    炭素と炭素の間の結合を自在に作り出せるようになり,医薬品や農薬,そして液晶や有機 EL などの電子材料の,選択的かつ効率的
    な合成に産業界で広く使われている。本講座では,Grignard 反応剤の調製方法,性質,反応例,最近の応用例などについて紹介する。

    ヨウ素の食べ物・食品ランキング TOP100
    https://k-nihondo.jp/gold/column/%E6%88%90%E5%88%86/%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0/%E3%83%A8%E3%82%A6%E7%B4%A0%E3%81%AE%E9%A3%9F%E3%81%B9%E7%89%A9TOP100.html

    ヨウ素を使った金属表面処理技術
    https://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/business/T905.pdf

    コーナンTips シーズニングとは!2つの意味と鉄製調理器具のお手入れ方法を詳しく解説
    https://contents.kohnan-eshop.com/leisure-seasoning/

    殺菌性、耐摩耗性などに優れたヨウ素含浸金属材料基材の酸化皮膜構造及びその形成方法
    特許権者:株式会社フジクラ、高谷 松文
    https://plidb.inpit.go.jp/pldb/html/HTML.R/2003/008/L2003008241.pdf

    四酸化三鉄
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E9%85%B8%E5%8C%96%E4%B8%89%E9%89%84

    ワニス
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%8B%E3%82%B9

    テレビン油
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%B3%E6%B2%B9

    How to Season a Cast Iron Pan (It’s Easier Than You Think!)
    https://www.seriouseats.com/how-to-season-cast-iron-pans-skillets-cookware

    フレスコ画とは
    https://chikart.ciao.jp/fresco/abouts/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%82%B3%E7%94%BB%E3%81%A8%E3%81%AF/

    農林水産省 ヨウ素価
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/overseas/usa_i-value.html

    日本農林規格 JAS 0988:2019 精製ラード Refined lard
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/kokujikaisei-91.pdf

    食用植物油脂の日本農林規格 (主なJAS規格値)
    http://www.oil-kensa.or.jp/pdf/JAS-kikakuti.pdf

    https://www.maff.go.jp/j/jas/kaigi/pdf/130426_sokai_j.pdf

    マーガリン類の日本農林規格
    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_11_maaga_160224.pdf

    市販家庭用マーガリンの脂肪酸組成に関する調査
    https://komajo.repo.nii.ac.jp/record/326/files/KJ00004250839.pdf

    https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/kokujikaisei-92.pdf

    油脂の用語と法律
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/1/4/1_413/_pdf/-char/ja

    米国における家庭用ショートニング及びラードの性状
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/39/2/39_2_75/_article/-char/ja/

    フッ素樹脂加工フライパンの空焚きに注意
    https://www2.nikkakyo.org/upload/plcenter/0322_2-5.pdf

  • そういえば去年の秋、福島原発のそばまでいった

    今日は311なので、少しだけ。

    災害遺構で残されていた海の側にあった小学校。津波が来たとき卒業式の準備をしていたそうだ。ちょうど見学してた前のグループが当時この学校に通っていた子どもたちが大人になって集まってたグループっぽく当時の思い出話しなんかをしていた。

    こちらは、いい年したおっさん組。中学生のときの同じクラスだったメンツ。といっても、自分なんかかは車の後部座席におまけで積んでもらって、滋賀方面に行くって聞いていたような気もするけど、いつのまにか福島になっていたぐらいの緩さの大人の修学旅行だ。

    自然災害の力の強さを思い知らされる。

    LOD2ぐらいの模型。あまちゃんの津波のシーンを思い出す。

    津波前はこんなに住宅が広がっていたんだねと、しみじみ。

    海岸付近には樹齢が高い木はほとんどなく、残っていても立ち枯れていた。10年経っても塩害がまだ残っているのかもしれない。家々は無い。

    この防波堤が福島原発。両方近くまで行ったんだけど、これはどっちだっけ?

    周りは更地になっていて、試験灌木栽培みたいなのがされていた。平方あたりで区切られていたのでどの木材が育つのかみたいな軽観察をしているようにみえた。葉っぱ見た感じ松材ではあるんだろうけど。

    なんの写真だか忘れたけど、多分、現場付近の地面。こういう割れたばかりっぽそうな砂岩だの泥岩だの、丸くなった河原に落ちてそうな絶対同一の場所では存在しえない石がすべてないまぜになっているのを見て実に自然じゃない自然だなーと思ってとったんだとおもう。

    あと、予約制なんだけど、東京電力がやっている原発事故資料館にも行った。直前の予約のときはうちしかいない感じだったんだけど、当日は他に3~4組居た。

    説明を聞いていてなぜなぜなぜという疑問が浮かんだが、「何か質問はありますか?」と聞かれたとき、「ありません。」と言うよりなかった。なぜならそれはもう起きてしまった過去の出来事だから。

    自分は小学校のとき原発がある柏崎で数年育っているので、原発に対する社会科見学的なものとかもしてるし、あと、まあ化学系の大学で放射線マークがあるような研究室にも居たので、普通の人より訓練と教育もうけているんで、偏見というか、まあ原発に対しては比較的ニュートラルなんだけど、なんていうかほんと駄目だなって思った。日本の悪いところが凝縮されてる感じ。

    発災後、廉価なガイガーカウンターを買った。オムロンだかが出した5000円ぐらいの民生品。東京では数値が検出限界でほぼべたづきなので動くことはなかったんだけれども、せっかくだからと持っていったら福島ジェイビレッジについたあたりから車の中から雑に空間線量を測っても高い値を表示する。

    これが福島原発の付近。

    写真ではとっていないが、山間部で立ち入り禁止の普段が目立ちはじめたので雑に測ったら車の中からなのに3とか4に達していて、目玉が飛び出た。これが名高い浪江かと愕然。ほんの数キロ山を挟むだけで全然低い値になったりしてほんとうにパッチワーク状。震災から10年以上経過して次の半減期となるとセシウム137の30年なので、自分なんかが生きている間は難しいかもしれないなと寂しくなった。たぶんこれぐらいでステイブル。

    さて、ちと過激なものいいになるかもしれないが、東京電力はスジとしては一回精算するのが禊だとおもう。少なくとも原状復帰は一民間企業には難しく、国営化して取り組むのがけじめでもあると思うし、財産を保全したまま、例えば劣後債券者である株主の解散価値を担保したまま事業継続するのはお角が違うんじゃないかなって。

    水素爆発していない二号機が実は一番被害がでかいとか、あと一歩間違っていれば東日本全部だめになっていた本当に紙一重だったんだなって。しかも、そのセイフティがふるさとを人質にとられた現場作業員におっつけられた頑張りだけで乗り切っていて、ほんとなんていうか地獄の劫火に投げ込まれるべきもの。存命中は逃げ切れるかもしれないが、100年もすればつまびらかに晒されるコース確定だと思う。

    原発を即時動かせという論がある。エネルギー輸入を考えれば自分もこれには賛成だ。

    だが、古い原発オメーはだめだ。

    そしてそれを運用する組織に信用がおけない。

    自分が小学生の頃、原子力建屋は分厚いコンクリートと分厚い鉄の格納容器で覆われているから、ジャンボジェットがつっこんでも大丈夫なんだと大人たちはうそぶいていた。実際は、原電が消失しただけでアウトだ。ベントもろくにできやしない。

    ジルコニウムのケースで覆っているだけだし、地下ドレーンもドループもなくベタ基礎の上に原子炉をおいている。40年前はそれでいいよ?でも、なんでそれを現代も後生大事に動かしてるの???おじいちゃんそれもう減価償却終わってるでしょ!

    「1970年代のアメ車を今でも大切に、ときよりオーバーホールしながら動かしているんだ!」ほほえましい。大切に使ってるんだなって感じがする。

    でも、昭和期からずっとその車体でタクシーにしてます。あたしゃ、あの大御所演歌歌手ものせてたんだよってなったらおい待てってなる。エアバックもABSやオートクルーズ機能もなければ、そもそもエアコンやパワーステアリングすらないような時代の代物。そりゃ事故ったときに中の人が死ぬのは当然じゃないか。

    正常系で終了したこともないものが異常系で強制終了して大惨事になった。

    なんともいたましい。

    電源喪失で炉心融解して、炉の圧力を抜くこともできずに、ベントが繋がっているから隣の建屋まで吹き飛んだとか、ほんと膝から力が抜ける。溶けたケースが反応を止める機構をもっているわけでもなし、炉が万が一抜けたときそこでスラッグに混ざって止まる機構もない。

    日本はリスクヘッジは得意だ。官僚的な考えに陥れば自分の任期中に動いているものに手を入れてなにか事故をおこしてしまえば自己の責任が追求されるので、狂信的な前例踏襲主義になる。キャリア上のリスクヘッジを踏まえて工学的なリスクヘッジ、バックアッププランがないがしろにされる。

    不確定要素が怖いから起きないという前提。

    リスクアセスメントがまるでない。

    万が一の事象がおきたらどのように被害軽減措置をおこないますか?というのが、ない。

    「現場が対応するので訓練をします。」これしかやっていない。

    原発事故はおこるべくしておこった事故。そしてさらなる大惨事と紙一重だった事故。

    放射能も、エネルギーも距離の乗数で減衰する。たとえ核融合ができたとしても、未来は小型化、モジュール化するのが想定される未来だ。エネルギーも地産地消になると考えれば、贖罪もかね行政首都は福島におくべきなのかもしれない。