ガソリン爆発、京都アニメーション、水素燃料


京アニの放火に巻き込まれた方が2ヶ月以上、経った今、また一人が亡くなられた。 先日全員快方へと報道があったばかり、また一人、才気溢れ若く前途有望なクリエイターが失われた。
深い悲しみとともに、ご冥福をお祈りします。

京アニ放火、玄関から逃げた女性死亡…死者36人に
www.yomiuri.co.jp/national/20191005-OYT1T50170/

犯行動機が「書いていた小説がパクられた」というなんとも頭を抱えてしまうものであるようだが、いまだ犯人の逮捕に至っておらず被疑者の回復を待っている状態である、言いたい事は山程あるが、犯人についてはここで私などが言っても詮無き事なので触れるのを辞めておこうと思う。

ガソリン放火

犯行の手段であるガソリンを用いた放火について。

この事件が起きるまで、実は私はガソリンはなかなか爆発しないものだと思っていた。 無知だねと思われるかもしれないが、言い訳をすると、少しだけ専門知識がある故、一周回って無知になっていた。
自分は大学の化学科を出ている。化学科を出るとガソリンスタンドの危険物取扱者の乙種4類を持っている資格の一個上の危険物を全種類取り扱える甲種の受験資格がおまけでついてくる。資格は取得していないが、その程度には可燃性危険物の危険性は知識としては持っていたつもりになっていた。

さて、なんで爆発しないと思っていたのかについてだが、ガソリンというものは、空気中の酸素と気化したガソリンである可燃性混合ガスの比率割合のレンジが非常にシビアに狭いため、濃度が一定以下でも、一定濃度以上でも爆発しない特性があるのだ。だから簡素なガソリンタンクに保管できるし、車にガソリンを入れるために蓋をあけた静電気で着火しても、ガソリンタンクに火が回り込んで吹き飛ばずに済んでいる。
素人がセルフで給油できるぐらいには、安全な危険物なのだ。

だから、たとえ車が横転して火がついても、よほどの事がないと爆発しないし、十二分の避難の時間があるものだと思っていた。実際にF1などでも消化器で消火できている。

ガソリンの爆発限界は1.1~7.6%と非常に狭い。かつ、密閉容器内で放っておくと56~79%まで気化するため、タンク内は自然と7.6%以上の濃度になるので火がタンク中にまで回りこまない。

容易に着火はするが、爆発させるには条件がある。これがガソリンの特性だ。

2003年の名古屋の立てこもり放火では、ガソリンを撒いてから着火まで3時間があった。この3時間で予混合がおきたため、着火時に爆発がおきた。・・・と考えられていた。

だが、今回はガソリンを撒いた犯行直後、みなが逃げ遅れる火災が起きた。

拡散燃焼

ガソリン爆発でないなら、では、京都アニメーションでは何が起きたのか。
ガソリンを撒き散らして火を着けた。化学的には拡散燃焼と呼ばれる現象だ。

爆発音が聞こえたとの証言もあるが、一部条件が揃ったところで、爆発がおきたかもしれないが、建物の内圧が高まって大きく吹き飛んでいないことからも、起きたのは爆発ではなく拡散燃焼からの予混合火炎であろう。

火災と、爆発では100倍ぐらい早く、発熱速度も100倍になる。
だが爆発は起きなくとも、通常の火災より素早い火炎の伝播がおきる。

ガソリンスタンドも少なくなった昨今では灯油のストーブも無くなりつつある。
ガソリンの気化がマイナス40℃で始まるのに対して灯油は44℃まで温めてあげないと火もつかない。

もし灯油を零してしまっても、すぐには火がつかないから安心して後始末ができる。・・・はずだ。
だが、その灯油でさえ、芯を使わなくても火をつける方法がある。
火炎放射器のように噴霧にしてから火をつければ拡散燃焼により素早く火炎が燃え広がる。

福知山花火大会露店爆発事故は、温めた炭酸のようにガソリン携行缶からガソリンが噴霧状に吹き出し、その先に火種があったことで被害が拡大した。

京都大学が放火火災の分析をしてくれている。

図5
5秒で螺旋階段が煙で埋まり、わずか10秒で1階は約 1218℃にもなる。
15秒で3階階段が煙で埋まり41℃、20秒で3階が255℃になる。
20秒で3階が352℃、30秒で2階上部まで煙で埋まり164℃。

今回は火災発生現場と上階まで抜ける螺旋階段をつたって煙突効果で火が上階まで登ってしまった、外部非常階段がなかったなどの建築構造物などのいくつもの不幸もあったが、なによりも、犯人はバケツにガソリンを入れて撒き散らかすことで火災延焼の速度を知ってから知らずか獲得してしまった事が最大の不幸だ。

仮設トイレでメタン爆発

仮設トイレでタバコを吸ったために爆発がおきて亡くなられたという、なんとも可哀想な事件がアメリカの方でおきた。

糞尿からメタンガス(いわゆるおならの成分)が立ち上り、これに火がつくことで爆発がおきたわけだ。
上のガソリンとメタノール(簡単にいうとメタンガスの液体)の図にもある通り、メタノールの爆発限界は6.7~36%と結構広い。(メタンガスだと5~15%?)

メタンの爆発事故は地中でメタンアーキアなどの微生物による分解の過程で生じるため、温泉ガスなどに交じることもあるので、比較的頻繁に爆発事故がおきていて、大惨事になることもある。

爆発の常識

トイレが爆発するなんて思って生活している人などほとんどいないだろう。

原発がある町で小学校時代を過ごした。
「原発ってのはとても頑丈に作っているからジャンボジェットで突っ込んでも大丈夫なんだ!!」と大人たちは言っていた。福島原発事故がおきるまで、私もそれを疑おうともしなかった。

ガソリンも爆発はなかなかしないものだ。比較的扱いやすいものだと考えていた。
もしかしたら火炎瓶闘争世代が、意図してガソリンの危険性を下の世代に教えないようにしたのかもしれないが、安全性バイアスであったのかもしれない。

例えばタワーマンションでの火災は、防炎扉でほとんど被害が十二分な消火や避難の時間は稼げる設計になっているはずだ。
だが、悪意をもってエレベーター付近で凶行に及ばれた場合、それらの安全策はどこまで機能するだろうか。それが拡散燃焼ではなく爆発だった場合は?

テロのソフトターゲット以外でもロンドンのグレンフェル・タワー火災のように、施設の老朽化とともに通常火災が深刻化するというのは十分に想定しうる未来だが、残念なことに、悲劇というのは起きてみないとそのような事が起きるなど思いもしない事ばかり。

水素燃料と水素爆発

福島原発で建屋を吹き飛ばしたのは水素爆発である。
水素は水に電気を流すだけでもつくることができる基本的な元素だ。
昨今は、燃料電池などとして期待されていて、ガソリン車の代わりに水素燃料電池の車や鉄道などが開発されている。

だが、この水素控えめに言ってもこと爆発に限ってはガソリンなどと比べるべくもない超危険物質である。

燃焼限界:水素4-75% メタン5-15%
着火:水素0.02mJ メタン0.3mJ

つまり、水素は低濃度でも高濃度でも爆発する。
静電気のパッっていう火花すら必要ない。ガソリンなどは、酸素濃度で爆発しないようコントロールできるが、水素は燃焼に酸素を必要としないのでできない。
つまり、水素がこんにちはしたら爆発までは時間の問題だ。

水素「きちゃった・・・。」

水素下限4%上限75%

水素は静電気のパッチっというのの1/10ぐらいのエネルギーで火が着く

爆発は2.67乗、威力150倍

水素燃料電池おっかねぇ

参考

2017年度「東京大学公開講座「爆発」」
ガス爆発・粉じん爆発の現象解析と防御技術
土橋律「ガス爆発・粉じん爆発の現象解析と防御技術」ー公開講座「爆発」2017